実施日:2024年3月23日(土)16:00~
登壇者:ピエール・フォルデス(監督)
開催場所:横浜ブルク13
 
めくらやなぎと眠る女
村上春樹の短編6作品(「バースデイ・ガール」、「かいつぶり」、「ねじまき鳥と火曜日の女たち」、「UFOが釧路に降りる」、「めくらやなぎと、眠る女」、「かえるくん、東京を救う」)を翻案し、1本の映画にした本作。世界最大のアヌシー国際アニメーション映画祭で審査員特別賞を受賞しており、日本でも初夏の劇場公開が予定されている。
 
拍手で迎えられたフォルデス監督は「日本を舞台にした作品をこうして日本のみなさんに観ていただけて嬉しく思います」と挨拶。ちなみに3月23日は、映画の中で“かえるくん”が片桐と共に東京を救うべく戦った日であり、この偶然の一致を観客から指摘されると、フォルデス監督は「本当だ!信じられない」と驚いた表情を見せていた。
めくらやなぎと眠る女
村上春樹の短編を映画化することに決めた経緯についてフォルデス監督は「当初は読者として彼の作品を読んでいて、彼の作品のスタイルに惹かれました。村上の作品には、必ず暗い部分があり、ミステリアスでもあり、そこに自分自身の暗い部分を投影し、考えることができ、そこからさらに新たな疑問がわいてくるのです」とその魅力を語る。
 
6作品の選定については「私にインスピレーションを与えてくれた、深みのある作品を選びました。理屈ではなく直感的に『これだ』と思いました。村上のスタイルは独特で、表面的には起こっていることを描きつつ、読み進めていくと人間の深みに入り込むことができるのです。だからこそ『わからない』、『つかみきれない』と感じる作品を選んでいます」と明かした。

めくらやなぎと眠る女
ピエール・フォルデス監督
「かえるくん、東京を救う」と「UFOが釧路に降りる」は短編集「神の子どもたちはみな踊る」に収められており、小説ではいずれも1995年の阪神淡路大震災を背景に物語が進むが、今回の映画では2011年の東日本大震災が背景となっている。この変更について、監督はまず「実際に起きたことを描いたり、原作の内容に忠実であることが“本物”であるとは思いません。感動や興味、成長をもたらし、自分を豊かにしてくれるものからスタートして、何かを作ることこそが、私にとっての本物なのです」と断った上で、監督自身がフランスにおいて、当時多くのニュース映像に触れたという東日本大震災を背景にすることを決めたと明かす。「繰り返しニュース映像を見て衝撃を受け、それを映画に登場するキョウコに投影させました。彼女の“外”の世界で地震が起こったのと同じように彼女の“中”でも地震が起こっているのを描いています」と語った。
 
以前は作曲家として活動しており、本作が初の長編アニメーション監督作となったフォルデス監督だが、実写ではなくアニメーションという表現を用いたことについて「以前は実写の作品も手がけていて、最初の構想では、アニメと実写を混ぜ合わせて作ろうと思っていました。しかし、やっているうちに全てアニメにしたほうが良いと感じました。実写とアニメの違いは、実写は目で見たこと、耳で聴いたことを直接的に再生するものであるのに対し、アニメは自分で見たものを解釈し、頭の中を映し出す拡張現実(AR)のようなものであるということだと思います」と説明。
 
劇中の東京の街の描写に関しても、“リアル”な東京の街並みと監督自身の“解釈”が入り混じった形で表現されているが「芸術作品とは解釈――感じたことを解釈し、表現するものであるので、どうしても現実と差が出てくるものです。村上の作品自体、日本の現実から乖離した世界を描いており、さらにその作品を読んだ私の解釈による視点で描いているわけで、さらなる現実からの乖離がそこに生じているわけです」と語った。
 
独特のキャラクター造形については、3Dによる彫刻を用いたと明かし「面白いもので、作っていくうちに『この人物はこういう性格だ』ということがわかるんです」と語るフォルデス監督。主人公の造形が、村上春樹の顔と似ているとの指摘には「いろんな方から同じことを言われるんですが(笑)、偶然です。決して村上さんをモデルにしたわけではないです。ただ、インスピレーションというものの困った部分で(苦笑)、それを受けると、考えていなかった部分で思いもよらないことが起こるものなんです」と語っていた。
めくらやなぎと眠る女