実施日:2024年3月23日(土)13:10~
登壇者:マリー・アマシュケリ(監督)、ルイーズ・モーロワ=パンザニ(キャスト)、ベネディクト・クーヴルール(エグゼクティブ・プロデューサー)
開催場所:横浜ブルク13
 
Àma Gloria
「主演のルイーズと共にこの舞台に立っています。フランスから14時間かけてやってきたので、ぜひとも楽しい時間をみなさまと過ごせたらと思っています」と笑顔で挨拶したマリー・アマシュケリ監督。ちょっぴり緊張気味のルイーズ・モーロワ=パンザニは「こんにちは!」と一言だけの挨拶となったが、会場からは大きな拍手が送られた。エグゼクティブ・プロデューサーのベネディクト・クーヴルールは「映画を紹介できること、みなさまからの質問も楽しみにしています」と日本の観客の感想に期待を込めた。
 

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マリー・アマシュケリ監督
2年かけて脚本を書き進めたアマシュケリ監督は「この作品にとってクレオという少女役を見つけることは最も重要なポイントでした」と振り返るも、キャスト探しは難航していたそう。「“キャスティング・ソヴァージュ”という、演技経験のない素人の子ども達から選び始めました。でも、なかなか気に入った子どもが見つからなくて。そんな時にキャスティング・ディレクターが近くの公園でとても魅力的な女の子が遊んでいると。弟と一緒に遊んでいる姿がとても印象的だったその女の子がルイーズでした。まさにこの役にピッタリの女の子でした」とニッコリ。「ルイーズに初めて会った当時は5歳。背も低くて小さくて目がくるっと大きくて、髪の毛もパーマでくるくるしていてとても印象的でした。ただ、5歳なのに120歳なんじゃないかと思うくらい成熟した部分もあって(笑)。一緒に仕事をしたら、私も学ぶことが多いんじゃないかなと思いました」とやっと見つけた適役との出会いを満面の笑みで振り返った。映画ではクレオがたくさん涙を流すシーンも。「初めて映画に出ましたが、泣くシーンは特別難しくはなかったです」と言葉は少ないながらも、堂々と回答したモーロワ=パンザニは再び観客から大きな拍手を浴びていた。
 
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ベネディクト・クーヴルール
映画制作までの経緯についてプロデューサーのクーヴルールは「アマシュケリとの出会いは私が『燃ゆる女の肖像』という映画を制作していた頃。いろいろなアイデアを話す中で、ベビーシッターと子どもの関係を描いたストーリーを考えていると聞きました。そこから、脚本を練り上げていき、いろいろなバージョンに書き替え、作り替えを繰り返し、どのようにすれば子どもの視線に立った映画が作れるのかを相談しながら吟味していきました」と制作過程を明かす。さらに子どもや若者をテーマにした映画を作る過程が好きだと話し、「なぜかというと、そのような映画を作ることにより、大人たちが忘れてしまった若い頃の気持ちを思い出してもらえる機会になるから」と理由を説明した。
 
映画の最後に記されたベビーシッターへのメッセージについて「私の実際のベビーシッター・ロリンダに捧げました」と答えたアマシュケリ監督。生まれてから6歳までアマシュケリ監督を育ててくれたベビーシッターで「当時の私にとっては彼女が私の人生のすべて。彼女の腕の中で育ち、彼女の眼差しの中に常にいたような関係でした」と懐かしむ。しかし、アマシュケリ監督が6歳の時に、映画の中のベビーシッター・グロリアと同様に、自分の子どもの世話をするために故郷に帰らなければならなくなった。「当時の私は非常に自己中で(笑)。彼女にさよならも言えないほど悲しくて、そのまま何年か過ぎてしまいました」と切ない思い出に触れる。しかし、映画の脚本の構想が立ち上がった際にロリンダに電話をすると、彼女の第一声は「私の娘、元気?」だったと笑みを浮かべる。「その言葉を聞いた時、何年経っても私を娘だと言ってくれたことをうれしく思うと同時に、お世話になっていながら、彼女の人生のことを何も知らなかったことに気づきました。そこから、私と彼女の関係にスポットを当てた物語を見せたいという気持ちになりました」と自身の経験が作品のアイデアになっていると解説した。
 
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ルイーズ・モーロワ=パンザニ
作中に登場するグロリアの故郷カーボベルデで食べた魚料理(白身の魚をグリルしたもの)の感想を訊かれたモーロワ=パンザニは「すごく美味しかったです。食べる直前に釣った魚で本当に新鮮でした」とまだ少し照れながらもしっかりと質問に答えた。また映画にはグロリアが故郷に帰った後に十字架のイメージが繰り返し登場する。アマシュケリ監督は「私は素人の役者さんと一緒に仕事をするのがすごく好き。グロリア役のイルサ・モレノも女優としてのキャリアは全くない方なのですが、彼女といろいろ話をしているうちに、彼女の人生について、そして宗教との関わり方について深い話ができるようになりました。それがグロリアとグロリアの宗教観、人生観も映画の中に盛り込みたいと思ったきっかけです。そうすることで映画にイルサの色を出すことができればいいなと思いました」とベビーシッターのグロリアを演じたイルサ・モレノとのやりとりにも言及した。
 
クレオとベビーシッターのグロリア、血の繋がらない2人をどのように見せようと思ったのかという質問にアマシュケリ監督は「映画で描かれるのは実際に親子ではない関係の2人。日本ではベビーシッターがまだそんなに多く普及していないと聞きましたが、フランスではベビーシッターを雇う家庭は非常に多いです。でも、ベビーシッターと子どもの関係はあまり語られることはなくて。これは非常に禁断の愛と言いますか、あまり大っぴらに語られることがないものだと思います。にもか関わらず、ベビーシッターと子どもの間にはものすごく強い愛情の関係が結ばれます。普段語られないところにもスポットを当てたいというのが、私の願いでした」と自身の思いを語った。

映画に淡い色鉛筆で描いたような映像が何度も登場する理由について「脚本を書いている時に行き詰まったのがきっかけ」とアマシュケリ監督。子どもの気持ちをどういう風に映画に表したらいいのかが分からなくなり、ペンが止まってしまったことがあったそう。「友人のグラフィストやアニメーターに相談したところ、子どもの気持ちを表す解決策のひとつとして“言葉ではなく絵で表すのはどうか”と提案されて。すごくいいアイデアだと思いました。子どもというのは小さい時には語彙が少ないために、自分の気持ちを言葉で十分に表すことができない側面があります。絵、そして色を使うことにより、それを表現できると考えました」と突破口を見つけた当時を振り返る。「アニメの制作はすごく大変でした。日本のみなさんはよくご存知だと思いますが、アニメの制作は非常に時間がかかります。1枚1枚、手作りをする過程を映画の撮影前にすべて終わらせていなければいけなくて。小さいチームを組み、一つ一つ手作りで細かい作業を進めてもらいました。それは職人芸のような作業でした」と苦労話を語る場面もあった。
 
ベビーシッターがあまり一般的でない、文化の違う国での配給に難しさを感じているかという質問には「むしろその逆。文化の違うところで、私たちの文化を紹介するのはとてもうれしいことで、よろこびです」と微笑んだアマシュケリ監督。「私が描いたのはベビーシッターと子どもの関係ですが、愛の関係で結ばれている2人。映画はベビーシッターですが、実際に自分の子どもではない、例えばいとこや叔母さん、叔父さんに育てられる子どももいます。実の親ではない人と子どもの間に生まれる愛の関係は、多分国境を超えて普遍的なもの。だから、私は逆に日本に来て好奇心がものすごく強くなり、日本のこと、文化、そして映画をどう思うのかをいろいろ知りたいという気持ちになっています」と心境を吐露していた。
 
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