実施日:2024年3月22日(金)19:15~
登壇者:ヴァネッサ・フィロ(監督)、キム・イジュラン(キャスト)
開催場所:横浜ブルク13
 
コンセント/同意
「日本で上映ができ光栄です。同じものを共有し、感じたことをお話できることをうれしく思います」と映画祭での上映、Q&Aの機会をよろこぶヴァネッサ・フィロ監督。続いてキム・イジュランが「私たちが持っているすべてのものを映画に託しました。光栄です」と挨拶すると、会場から二人へ大きな拍手が送られた。
 

コンセント/同意
ヴァネッサ・フィロ監督
ヴァネッサ・スプリンゴラの『同意』(内山奈緒美:訳/中央公論新社刊)を映画化した理由についてフィロ監督は、「前作『マイ・エンジェル』のプロデューサー、マルク・ミソニエから読むべき本だとすすめられました」とし、本の内容にとても共鳴するものがあったと振り返る。これまでも未成年の保護を大切に感じてきた中で「内容に感銘を受け、本能的に映画化したい、映画化が必要だと思いました。映画にすることでこうした犯罪を未然に防ぐことができると思いました」と話したフィロ監督。その思いはある種の“覚悟”だったようで、映画化により「『同意』の中で書いている戦いを引き継ぎ、(その戦いを)続けることができると思いました」と力を込めた。映画を観た人の中には「自分が被害者だと気づく人もいると思います。自分一人じゃない、そういう自覚を持つと思います。捕食者の支配のメカニズムが描かれているという意味でも、映画化は本能的に必然と感じるものでした」とも語った。
 
コンセント/同意
キム・イジュラン
キム・イジュランはオーディションの話を受け、本屋に走り原作を買い、一気に読破したという。「一気に読み、そして何度も読みました。とても感動すると同時に強い怒りを感じました。ヴァネッサの勇気が乗り移ったようで、(映画に)関わらなければいけない、その必要性を感じました。脚本は事実にとても忠実で、原作を裏切らない、そして演じる私たちを高みにあげてくれるものでした。出演はこれまででもっとも素晴らしい体験になりました」と本作に込めた思いを明かした。
 
原作は事実を告発したスプリンゴラの著書。フィロ監督は映画にしたい気持ちを伝えるべく、どんなところに感銘を受けたのか、手紙で気持ちを忠実に伝えたという。「ヴァネッサは映画化には大きな懸念を持っていたと思います。でも、直接会って何時間か話をしているうちに直感的に信頼感を持ってくれて、最終的にOKをもらいました。私が心がけていたのは原作に忠実であること。そうしないと彼女を裏切ることになります。(原作で語られている裏切りに続き)2度目の裏切りになってはいけない、同じことをしてはいけないというこちらの意図を感じて映画化にOKしてくれたのだと思います」とスプリンゴラの心境を慮る。さらに母親像についてもたくさん話したと説明。「母親はとても大きな批判をされ、責められています。母親の立場の複雑性、もろさ、なぜこのような反応に至ったのかを描くため、原作よりも膨らませたいという思いも伝え、OKをもらいました」と原作に忠実に描きつつも、物語を伝えるために映画としての表現も加え、その際には必ずスプリンゴラに確認を取り、承諾を得るというやりとりをしていたという。「第1稿から、(改稿のたびに)毎回脚本を読んでもらいました。脚本について話すうちにヴァネッサとはとても近い関係になり、作品だけでなく人間としても素晴らしい出会いになりました。彼女と話をする中で私自身も成長することができました」と充実感をにじませた。また「映画にはフィクションも演出も入ります。本を読んだだけでは分からない闇の部分を話してくれたので、(映画用に)膨らませることができました。もちろん私の想像の部分もありますが、想像の部分も彼女を裏切らないという思いがありました」と常にスプリンゴラの思いに寄り添っていたとし、その気持ちの証としてエンドロールに名前を記載したと説明した。
 
タイトルの『同意』という言葉、その意味についてフィロ監督は「ヴァネッサは同意を与えていません。13歳で50歳のガブリエル・マツネフに出会っています。(関係を持ったのは)14歳の時。相手ははるか年上で、地位も違うし、格差もある。彼女が同意を与えるのは不可能です。ヴァネッサは単に彼のことが好きだった。でも、ガブリエルはあくまで文学に昇華しようという気持ちだった。二人の気持ちは全く違うものでした」と解説。ヴァネッサ役のキムは「カブリエルがヴァネッサをじっと見つめる。その時に彼の手口の第一段階は始まっています。彼はいつも同じ手口を使います。自分が尊敬する人からそんな風に見られることに女の子は自分が存在していること、そして強いときめきを感じます。でも彼のほうはそうではない。彼女に出会った初日目から彼の企ては進んでいるのです」とヴァネッサとガブリエルの気持ちには最初から“違い”があったと指摘。フィロ監督も「ガブリエルはヴァネッサに対し、自分に愛の手紙を書くよう促します。その手紙はのちに彼女が同意していた証拠になります。彼は頭の中で、最終的に自分が罰せられないように考えています。これが彼のやり方、手口なのです。ガブリエルにとってヴァネッサは獲物の一人でしかない。一方で彼女は“同意”できる年齢ではありませんでした」と補足し、ヴァネッサには“同意”はないと強調した。
 
原作ではガブリエルは“G”と表記されている。映画ではなぜ“ガブリエル・マツネフ”とフルネームにしたのかという質問に「本はとても話題になりメディアでたくさん取り上げられました。Gがガブリエルであることは公然の事実。みんなが知っていることなので映画でまた“G”というイニシャルに戻すのは不自然だと感じたからです。ガブリエル自身もこの事実があったことを認めています。唯一否定しているのは“同意がなかった”ということ。彼は同意があり愛の物語だったと感じていると話しています」と答えたフィロ監督は、映画に関わった4年を振り返り、「この映画と一緒に生きてきました。映画を作ることで(物語の中から)抜けられないという影響もあったけれど、最終的には映画によって成長することができたと思っています。この映画を掲げていろいろな場所を回っています。その中で、多くの犠牲者と話をする機会が何度もありました。自分も被害者だったと。こうした話を聞くことは映画を作る前には想像していませんでした」と映画の存在で自身がさまざまな考えを知る機会を得たことに感謝。そして「ヴァネッサをとても尊敬しています。映画を作ることで彼女の勇気に敬意を表することができました」とヴァネッサへの思いを改めて言葉にした。「大変な撮影でした」と切り出したキムは「感情面でも身体面でも大変な役。でも2ヶ月の撮影はとても美しい経験でした。スタッフ、キャストが一体となって撮影に臨んでいました。ヴァネッサの戦いのために、私たちも戦っていました。大変な時もヴァネッサのためにやっていると思うことで乗り越えることができました」と撮影現場の様子や自身の心境を伝え、映画の出来栄えに胸を張っていた。
 
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