実施日:2024年3月21日(木)17:00~
登壇者:ラジ・リ(監督)、トゥフィク・アヤディ(プロデューサー)、クリストフ・バラル(プロデューサー)
開催場所:横浜ブルク13

邦題が『バティモン5 望まれざる者』に決定したことを受けてプロデューサーのトゥフィク・アヤディは「多くの日本の観客に作品を観ていただけることを光栄に思っています」と笑顔。

トゥフィク・アヤディ

同じく本作のプロデューサーを務めるクリストフ・バラルは「初来日で作品と共に日本に来られたことをうれしく思っています」と挨拶。本作のフランス上映時を振り返ったラジ・リ監督は「非常に衝撃的な作品だったようで、いろいろなリアクションがありました。日本のみなさんが作品を観てどのように感じたのかを率直に伝えていただければ、とてもうれしく思います」とQ&Aへの期待をにじませた。

「プロジェクトはどのように始まったのか」という質問に対し、アヤディとバラルがプロデュースを務めた2018年セザール賞ノミネート、クレモン=フェラン国際短編映画祭で賞を受賞したリ監督の短編作品『レ・ミゼラブル(原題:Les Misérables)』(2017)に触れ、「我々の会社はプロジェクトというよりも台本ありき、内容ありきという形で映画を制作しています」と説明し、今回も同じ形でのスタートだったことを明かした。

クリストフ・バラル

「架空の街を舞台で起きるショッキングな出来事は、何がベースになっているのか」という質問にリ監督は「(舞台は)架空の街ですが、しっかりとした現実に基づいて書かれている脚本です。『レ・ミゼラブル』と本作、そしてもう1本の3部作でフランスの大都市の郊外地域の現実というものを作品にしていこうと考えました」と、本作に続くもう1本があることもほのめかした。「ポジティブで未来に対しての希望を捨てない印象的なヒロインを主人公にした理由」については「実際問題、このような郊外地区に住んでいる人たち、困っている人たちと密な関係を築き、いろいろとサポートしているのが女性であること。女性が中心となってそういった活動が展開されているという現実があります。なので(映画も)現実と同じように進めようという意識でこのような設定にしました」と説明。

ラジ・リ監督
「現在、フランス社会で起きている移民問題について、どのように感じているのか、映画ではどのような意識で表現しようと考えたのか」との質問に「映画にも移民として入ってきて社会に同化している“今の世代” の移民、さらに上の世代で植民地時代に植民地からフランスに入ってきてそこで暮らしている人々が登場します。好きで入ってきたわけではない人もたくさんいて、同化しようという努力もあまりしなくなっている高齢者の方もいます。その世代間の対立というのでしょうか。新しく入ってきた人たち、すでに地域に同化している人たち、そして同化できなかった人たちの対立が積み重なっている状態。そこに、新しい移民をシリアから受け入れています。移民が多様化した社会を実現しようとする中で、かえって摩擦を大きくしてしまうという現実を映画では描いています」と答えたリ監督のコメントに、最近はシリアやウクライナからの移民も入ってくるなど、比較的寛容な政策をとっている一方で、旧植民地から入ってきた移民に対しての冷たい態度、この差がフランス社会の中で大きな歪みを作っているという“フランス社会の実情”について、客席でQ&Aを聞いていた、『美しき仕事 4Kレストア版』のクレール・ドゥニ監督から補足があり、映画祭らしいアットホームな雰囲気となった。
ドローンを使った撮影にこだわりがあるのか、という質問に「映画の入口で問題になっている地域全体を上から地図のように見せたかった」と答えたリ監督。最後も上から撮影することにより、入口と出口という意識で映画を締めたかったと解説。さらに手軽に空撮ができるドローンは比較的よく使用する撮影方法だとも話した。グローバルで起きている問題を凝縮した作品で、とても考えさせられたという観客の感想にプロデューサーのアヤディは「監督も言っているように、映画というのは普遍的なテーマを描き、観る人に質問を投げかけるもの。我々もテーマを持って問いかける形でこの映画を作りました」と語り、さまざまな意見が出ることに期待を込めていた。