午前4時にパリの夜は明ける』上映後Q&Aレポート
上映日:2022年12月4日(日)14:30~
ゲスト:ミカエル・アース(監督)、ピエール・グィヤール(プロデューサー)
MC:矢田部吉彦
通訳:永友優子
午前4時にパリの夜は明ける
kino cinema横浜みなとみらいでの『午前4時にパリの夜は明ける』上映後、ミカエル・アース監督と、プロデューサーのピエール・グィヤールさんを迎えたQ&Aが行われた。シャルロット・ゲンズブール、エマニュエル・ベアールらフランスを代表する名優たちと、『アマンダと僕』のミカエル・アース監督がタッグを組んだ本作は、80年代のパリで暮らすある家族をめぐる7年の物語を、繊細かつ感情を揺さぶる人間ドラマとして描き出した。
 
本作で、1980年代のパリを描き出そうとした理由について「人間の人格は子供時代に形成されると言いますが、わたしにとっての子供時代がまさに80年代でした。その時代の色合いや感覚、質感、音など、そういうものに育てられたと思っています」と語るアース監督。「ただし、ここでは80年代に対するノスタルジーを描きたかったわけではない。どの時代にも良いところや悪いところもあるので、80年代が素晴らしいということが言いたいのではなく、その時代に再び飛び込んでみたいと思ったわけです。例えばこの時代で、夫に去られた50代の女性を描きたい、パリの15地区を描きたい、深夜ラジオを描きたいという思いがありました」と明かす。
午前4時にパリの夜は明ける
また、本作の主人公エリザベートにシャルロット・ゲンズブールを起用した理由について「わたしは単純に分類できないようなものに興味があるんです。エリザベートという役も一枚岩ではなく、いろんな側面を持っている役だと思います。ナイーブである一方でとても洞察力がある。内気であるかと思えば、とても行動力がある。そういう役にシャルロット・ゲンズブールが合うんじゃないかと思ったんです」と語るアース監督。「そして彼女自身にも、もろいところ、傷つきやすいところもあるが、一方でとても芯がしっかりしている。わたしは女優に限らず、そういう二面性を持つ人が好きです。そういう意味でも彼女にピッタリな役だなと思ったんです」と付け加えた。
 
本作にはシャルロットに加え、エマニュエル・ベアールも出演している。そのことについてプロデューサーのピエールも「今回のキャスティングは恵まれていたと思います」と満足げな表情。「ミカエル・アース監督の『アマンダと僕』が評判を呼んだこともありますし、特に監督のシナリオがすばらしかったので、多くの俳優たちが一緒に仕事をしたいと言ってくれたんです。これが続くことを願っています」と振り返った。
午前4時にパリの夜は明ける
撮影現場ではシャルロットと、エリザベートの息子マチアスを演じたキト・レイヨン=リシュテル、そしてエリザベートたちと家族のような交流を持つことになる家出少女タルラを演じたノエ・アビタといった若手俳優たちとの息はピッタリだったという。アース監督も「本当に自然と家族のようになっていきましたね。若手の俳優たちは、あのシャルロット・ゲンズブールと共演するということでとても緊張していたと思うけど、シャルロットは本当に寛容な人だから。みんなに気を配っていて。すぐに家族のように仲良くなっていましたね」と振り返った。
 
本作では、タルラたちが映画館で“不意に遭遇し、魅了される映画”として、エリック・ロメール監督の1984年作『満月の夜』が引用されている。その意図について質問されたアース監督は、「もちろんロメールは大好きな監督なんですが、今回使ったのはパスカル・オジェへのオマージュがありました」と語る。パスカルは、同作でヴェネチア国際映画祭主演女優賞を受賞するも、25歳という若さで急逝してしまう。そのことを踏まえ、「彼女は残念ながら若くして亡くなってしまいましたが、わたしはパスカル・オジェという女優に魅了されたんです。タルラというのは、パスカル・オジェを彷彿とさせるところがあります。ですから今回はロメールというよりは、パスカル・オジェへのオマージュというところがあるんです」と説明した。
 
そして本作ではもう1本。パスカル・オジェの出演作として、ジャック・リヴェット監督の『北の橋』(1982)も引用されている。アース監督も「2つの作品は80年代の映画なので、これらの作品から80年代の空気を感じることができると思います」とその理由について明かした。