マスタークラス「ようこそ、フランスのストップモーション・アニメーションの世界へ 」
12月4日(日)13:00~
ゲスト:マチュー・クートワ(『イヌとイタリア人、お断り!』プロデューサー)、ブリュノ・コレ(『イヌとイタリア人、お断り!』アニメーター)
MC:矢田部吉彦
通訳:高野勢子
ようこそ、フランスのストップモーション・アニメーションの世界へ
フランス映画祭の来日ゲストが登壇し、大学生に向けたセミナー形式のトークイベント「フランス映画祭2022 横浜 マスタークラス」が3年ぶりの対面式イベントを実施。12月4日、旧第一銀行横浜支店(横浜市中区本町)にて「ようこそ、フランスのストップモーション・アニメーションの世界へ 」をテーマに、上映作品『イヌとイタリア人、お断り!』の共同プロデューサーであるマチュー・クートワ、アニメーターを務めたブリュノ・コレが、その制作を通して、フランスのストップモーション・アニメーションの魅力的な世界と制作方法を語りました。
 
本作はアラン・ウゲット監督が、シナリオ執筆から完成までに9年間の歳月を費やした力作。イタリア北部からアルプスの山々を超えて、フランスで新しい生活を始め、彼が愛した家族の運命を変えたルイジ・ウゲット。その半生を孫が振り返るという物語です。
 
マチュー・クートワは「ウゲット監督には、個人的な家族の歴史を通して、広い視点で世界中の移民の生活や苦労を語りたいというビジョンがありました」と企画の立ち上げを語り、「同様にストップモーション・アニメーションも、いろいろな国のクリエーターが関わる国境を超えた冒険でした」と回想。製作費は日本円でおよそ5.5億円だといい、「それでも上映時間70分のストップモーション・アニメーションを完成させるには、足りない金額。ですから、さまざまな経費節減が必要でした」と明かしました。
ようこそ、フランスのストップモーション・アニメーションの世界へ
具体的には登場する人形の顔を同じにすることで、効率化を図ったそうで、「衣装やひげなど変化をつけながら、同じ人形が別のキャラクターを演じることもありました。ある家族の半世紀を描く物語ですが、子ども時代から、思春期はスキップし、いきなり大人に成長しているのもそのせいです」と工夫を語りました。
 
とはいえ、作品のクオリティに対するこだわりは確保され、「ウゲット監督はまず、人形の目を大きくしたいと言いました。彼らが歴史の目撃者であることを表現するためです。もう1つは手を大きくすること。手から手へと受け継がれる家族の歴史を象徴的に描きたいという思いがあったのです」。ブロッコリーで樹木を表現するなど、身近なものを利用するのも、ウゲット監督のこだわりです。
ようこそ、フランスのストップモーション・アニメーションの世界へ
コロナ禍で撮影が2度にわたり、中断されるなか、6人のアニメーターが1日にそれぞれ4秒間の映像を撮影――つまり、1日にわずか24秒しか撮影できないという、過酷な撮影では、作品の命である人形が破損することもしばしば。「『トイ・ストーリー2』に登場するおもちゃコレクターみたいに、毎日誰かが人形を修理していました」と振り返りました。
 
ブリュノ・コレ監督は「人形のサイズは撮影にも影響を与えます。大きければ大きいほど、精密に動かすことができますが、その分大きなセットが必要なので、予算的な問題でプロデューサーとせめぎ合いもありました」。また、数に限りがある人形をフル活用するため、「一般的には人形には1つの衣装を着せたままですが、今回は着脱できる衣装を考案しました」とも。素材はシリコン樹脂で、「骨格を入れて、より自然に動けるように制作しました」と舞台裏を話していました。
ようこそ、フランスのストップモーション・アニメーションの世界へ
また、人形が歩くシーンでは、自らデモンストレーションを披露し、「バランスを保つために、地面に穴をあけて、人形を立たせました。ただ、次の瞬間には、地面の穴を埋めて、また次の一歩の穴をあける…。その繰り返しでした。平面なら靴の下に磁石をつけるケースもありますが、今回は雪山をはじめ、いろんなシチュエーションだったので、無理でした」とストップモーション・アニメーションならではの途方もない作業を語っていました。
 
ようこそ、フランスのストップモーション・アニメーションの世界へ

ようこそ、フランスのストップモーション・アニメーションの世界へ

旧第一銀行横浜支店を会場にマスタークラスが開催されました。