実施日:2024年3月24日(日)16:15~
登壇者:セバスチャン・ヴァニセック(監督)
開催場所:横浜ブルク13
 
Vermines
「初めて日本で作品を上映することができて誇りに思っています。フランスのホラー映画はあまり観る機会がないとは思いますが、みなさんの感想をぜひ聞かせてください!」と笑顔で挨拶したセバスチャン・ヴァニセック監督。「フランスの郊外の集合住宅に恐ろしい毒グモがやってきて、最悪な事態に進展していく…」という物語はどのように生まれたのかという質問に、初めての長編映画を作るにあたり2つの重要なテーマがあったとし、「1つは人の感覚に訴える作品を作ること。もう1つは子どもの頃からよく知る郊外地区の問題、そこに暮らす人たちに向けられる偏見の目をピックアップしたい、と思いついた物語」と答えた。

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セバスチャン・ヴァニセック監督
パリ郊外のアパートを舞台にした物語でマチュー・カソヴィッツやジャック・オディアールの監督作品を感じさせる部分もあったという感想に「気づいた方もいるかもしれませんが、カソヴィッツ監督へのオマージュが入っています」とニッコリ。しかし、郊外問題を描いたこれまでの作品とは違う部分があるとし、「これまでの作品は郊外問題の“悪い側面”に注目することが多かった。でも、私はここで暮らす人たちのポジティブな一面を描きたかった。協力し合って、団結して一緒に生きている。そういうところに焦点を当てたいと思っていました」と作品に込めた思いに触れた。
 
映画に登場する建物の形状がとても印象的との声に「実在する建物です」と答え、「僕が生まれ育った場所、ノワジー=ル=グランという郊外で撮影しました。フランスで治安の悪いところ、問題を抱えている地区として有名なのですが、自分が生まれ育った地区で撮影できたのはうれしかったです」と本作のロケ地を明かした。
 
本作での“クモ”の見せ方について。撮影で苦労した点を問われると、「僕はクモが大好きです。クモだけでなくあらゆる大小の生き物が好きです。これまでの短編でも昆虫などを題材にした作品をたくさん撮ってきました。小さい生き物を大きなスクリーンで見せることにより、生き物としての複雑さや美しさを知ってもらいたい気持ちがあります」と回答。本作に登場するクモは「郊外に生きる人と同じように被害者です。もともと生きていた場所から引き離され、生き延びるために必死にしているだけのこと。その場所で生きている人間と同じなのです。血に飢えた怪物という描き方はしたくないという思いがありました」と解説。さらに、撮影には本物のクモを200匹使ったそうで、「クモは決して怖くありません。人間の方がよっぽど怖いです(笑)。映画では本物のクモを使っているところと、200匹のクモから採取したデータで作ったCGを使っているところもあります。3Dで情報をキャッチしてクモを再現し、映画の中に編集で差し込んでいます」と撮影方法を伝え、「限られた予算という制約の中、シルエットで撮ったり、暗闇の中でしかクモを見せないという工夫をしています」と説明した。
 
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「過去のホラー作品の影響はあるのか?」と問われると、「たくさん短編を撮って来たけれど、今回が初めてのホラーです。いろいろなホラー映画があるけれど、実は僕自身、それほどホラー映画は好きではありません(笑)。過去の作品をたくさん観て勉強したわけでもないので、新しい自分ならではのスタイルを見つけることができた気がしています」と自信をにじませた。
 
映画を勉強中の学生にアドバイスを求められると「できるとすれば…」と控えめな前置きをし、「たくさん、いろいろなものを撮ったほうがいい。MVでも短編でも、なんでもいいから数をやること。数をこなすうちに良くないものが自然と排除され、いいものが残ります。僕はそうやってきました」と経験に基づきコメント。さらに、フランスでのヒットや日本をはじめとする海外での映画祭に招待されていることについて「低予算で撮ったにも関わらず、フランスでは27万人が観てくれました。そうしたヒットで国内外のフェスティバルから声がかかり、作品を紹介することができています。アメリカをはじめ海外からの映画制作のオファーもあります。海外資本で映画を制作する予定がありますが、自分としてはフランス映画を作りたいという思いがあります」とこだわりを語る。「フランスは映画を作るための才能がすべて揃っている国。フランスの映画で世界に通用するものを作りたいです。次回作がホラーになるかどうかもジャンルも分からないけれど、個性的な作品を作ることができればと思っています」と今後の展開にも言及した。
 
主人公のカレブの「誓う?誓わない?」というセリフが印象的との感想に「カレブは“動物園を作りたい”と無邪気に約束しています。しかし、友人や親を失うなどさまざまな経験をする中で、簡単に約束をすることができなくなっていきます。カレブの中から無邪気さが失われた瞬間、誓うというよりも約束、そんな意味が込められています」と話した。
 
映画で使われているラップミュージックについては「インディペンデントの映画なので、インディペンデントレーベルで音楽を出しているミュージシャンの音楽を使いたいと思っていました。フランスのラップミュージックはフランスの都市文化として認められつつあります。例えるなら、日本から世界に発信されていったアニメ文化に似ています。今を生きている世代の、生きたフランス文化も盛り込んでいきたいと考えていました」と、音楽に込めた自身の思いも丁寧に伝えた。
 
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