実施日:2024年3月24日(日)13:15~
登壇者:クレール・ドゥニ(監督)
開催場所:横浜ブルク13
ロベール・アンリコ、ジャック・リヴェット、ヴィム・ヴェンダース、ジム・ジャームッシュらの名だたる巨匠の助監督を務め、1988年に監督デビュー。ベルリン国際映画祭最優秀監督賞(銀熊賞)に輝いた『愛と激しさをもって』や『パリ、18区、夜。』などで知られるクレール・ドゥニ監督。1948年生まれ、この4月で76歳となる世界的女性監督が登壇すると会場からは多くの拍手が送られた。
冒頭の挨拶でクレール・ドゥニ監督は「(みなさんにとって)良い日曜日の午後になったらうれしいのですが、映画はいかがでしたでしょうか?気に入っていただけましたでしょうか?私はここに来れてとても幸せです。私はずっと時差ぼけと闘っていてちょっと変なのですが、今日はよろしくお願いします」と言って会場を笑顔にした。
今回上映された『美しき仕事 4Kレストア版』は、彼女が1998年に発表した一作。ロッテルダム国際映画祭でKNF賞に輝くなど高い評価を受け、『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督が影響を受けた作品に挙げる、海外の映画ファンの間でカルト的人気を誇る作品ながら、日本では劇場公開されないできた。その一作が4Kレストア版としてのお目見えとなった。
まず、今回、4Kレストアで目指した点について聞かれると監督は「今回の4Kレストア版の修復作業は、撮影監督のアニエス・ゴダールと一緒にやりました。映画の修復をどのようにしたかといいますと、最初にこの映画を撮ったときに心に残ったことや感動したことを思いだそうと記憶をたどりました。そして、その甦った記憶を基に修復作業をしていきました。また、この映画は35mmフィルムで撮っていて、物語の舞台となるのはジブチで実際に撮影したのもジブチです。ジブチの風景というのは一度見たらもう忘れられないような風景なんです。アニエス・ゴダールは当時、ジブチの風景を見たときにこんな風に表現しました。『ここは世界のはじまりか、それとも世界が終わった後の風景』と。それぐらい鮮烈な印象を残したんです。当時のあのジブチの風景とこの土地ならではの独特の光をもう一度再現することを目指しました」と明かした。
作品は、「白鯨」などで知られるハーマン・メルビルの小説「ビリー・バッド」がベース。アフリカのジブチに駐留しているフランスの外国人部隊と、彼らを率いる指揮官の送る毎日が描かれる。その中でひとつ印象に残るのが、太陽が降り注ぐ中、訓練に明け暮れ、肉体労働に従事することもある軍人たちの鍛え上げられた肉体。会場から男性の身体性に着目したのではないかという質問が飛ぶと、クレール・ドゥニ監督は「映画にしても絵画にしても、長らく女性の体の美しさを表現してきました。でも、そろそろ男性の肉体美に気づいてもいいんじゃないかなって思ったんです」とはにかみながら答えた。
また、主人公のガルー曹長を演じたのは、『汚れた血』『ポンヌフの恋人』などのレオス・カラックス作品で日本でもよく知られるドニ・ラヴァン。彼の印象について聞かれると「この作品に登場する部隊の軍人は15人いるのだけれど、うち13人は本物の軍人。俳優はドニ・ラヴァンと、ガルーの上官に当たる少佐を演じたミシェル・シュボールだけでした。で、ミシェル・シュボールはゴダールの映画などに出演していたのだけれど一度、映画から身を引いた。それから再び戻ってきた方だったんですね。それもあって、ドニがミシェル・シュボールと一緒に仕事をできることをすごく楽しみにしていたことを良く記憶しています。それから、わたしの印象ですが、ドニはとても好奇心旺盛な性格で。撮影日以外は、ジブチの街を見たいと、よく出かけていました。とても感じのいい方ですよ」と明かした。
また、長く第一線で活躍し続けている女性監督ということで、会場からは近年、女性監督の評価が高まっているのではないかという質問に対しては「男性の職業として、映画作りというのは始まったところがあります。でも、そこから少しずつ変わっていった。ただ、これはなにも映画に限ったことではありません。社会がどんどん変わっていき、いままで男性の職業とされていた仕事に女性が進出していった。そして定着して、それがふつうのことになっていった。そういう風に社会が変化しただけであって、わたしはここ数年で女性監督が高く評価を受けるようになったとか、再評価されているとか考えていません。社会が変化して女性監督が当たり前になって、自ずと作品が増える。その中には傑作と呼ばれるものが出る。そういうことだと思います。ただ、わたし自身が恵まれていたなと思うのは、フランスは幸いなことに、第二次大戦後、映画を支援するCNCというシステムを国が作ったのです。たとえばシナリオが良ければその段階で男女関係なく支援が出るといったシステムがあった。だから、他国と比べると女性監督が長編を作りやすい環境であったことは幸運だったと思います。いまは日本でもそうでしょうし、韓国でもアフリカでも女性監督が映画を作るようになっています。今年のベルリン国際映画祭で最高賞に輝いたマティ・ディオップ監督も、昨年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『落下の解剖学』のジュスティーヌ・トリエ監督も女性監督です。もうそう社会が変化したということだと思います」と丁寧に答え会場を後にした。