ラジ・リ監督インタビュー
―なぜこの題材を取り上げようと思ったのか、教えてください。
 
移民問題というのは非常に大きな問題としてフランスに存在しています。私自身、両親は元々仕事を求めてフランスにやってきた人たちでした。フランスには移民の長い歴史があって、ひとことで移民と言っても年代によって移民した人たちが異なります。80年代にはイタリアから、あるいはポルトガルからの移民が多かったのですが、その後、マグレブというアフリカの上にあるチュニジア、モロッコ、アルジェリアなどからやって来た移民、アフリカ系の移民が多くなりました。その次に今度はトルコとかパキスタンからの移民がやってきて、最近だとシリアとかウクライナからの移民が来ました。この様に移民と言っても様々なルーツがあり、全員に対して受け入れる側の体制が平等かというとそんなことはなく、どこから来たか、どんな人かによって受け入れ方が違うというのがフランスの実情なんです。一応フランスは建前としては人権、自由、平等と博愛という理念を掲げていますけど、実際は出身や、肌の色、宗教などによって不平等な受け入れ方をしています。例えばウクライナの人は肌も白くて、目も青くて、宗教的にも問題がないので彼らはいい待遇で受け入れられています。住居もお金も仕事も用意されているという様に。
それが、例えばシリア人に関して言うと、ムスリム系の人に対しては非常に雑な扱いというか、不平等な受け入れ方をしていて、同じシリアでも、キリスト教系の人は、すごくいい体制で受け入れてもらってる。人種差別的な面もあり、そういう大きな問題がある為今回取り上げました。
 
―映画祭初日は、寒い中レッドカーペットを歩いていただきましたが、横浜の印象はいかがでしょうか。
 
まず、今回この映画祭に呼んでいただいて本当に嬉しいですし、このような映画祭で自分の作品を上映できたことを大変光栄に思っています。
このフランスの郊外地区の貧困問題を扱った作品を日本の観客の皆さんに見ていただけることをとても誇らしく、嬉しく思っています。確かに開会式の日大変寒かったですけども、それは全然大したことはありません。
横浜という街に関しては、とても近代的で未来的な印象を受けました。私は世界各地を訪れていて、その度にその自分のルーツであるアフリカと比べるんですが 特にここ横浜をはじめとする日本というのは、アフリカの方が1世紀ぐらい遅れている感じがします。それほどに先進国だなという印象を強く受けました。
 
―最後にこの作品の公開を楽しみにしている観客の皆さんにメッセージをお願いします。
 
日本の皆さんには、僕にとっても大切なこの作品をぜひ観ていただきたいと思います。日本の皆さんは特に、フランスおよびパリ、フランス文化などが大好きな方々が多いと思います。そういう方々が持っているパリあるいはフランスのイメージとは ちょっと違う、その美しい絵はがきの裏側にある厳しい現実、スラムのようなものがあったり、みんながそこで非常に厳しい生活を強いられているという現実があるってことも、ぜひこの映画を通して知っていただきたいです。映画を観た後、今度パリに訪れた時には、こういう郊外地区にもちょっと足を運んでいただいて、実際にどうなのか見ていただくのもいいかもしれません。
 
 

監督:ラジ・リ
キャスト:アンタ・ディアウ、アレクシス・マネンティ、アリストート・ルインドゥラ、スティーヴ・ティアンチュー
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