実施日:2024年3月23日(土)19:15~
登壇者:エリーズ・ジラール(監督)、伊原剛志(キャスト)
開催場所:横浜ブルク13
 
日本のシドニー

日本のシドニー
エリーズ・ジラール監督
ジラール監督は「みなさんこんばんは。こうしてみなさんに観ていただき、感動しています。私にとって、この映画は“日本的な作品”というよりも、日本映画です」と挨拶。
 
伊原剛志はこの日、観客と共に客席で作品を鑑賞しており「今日、私も初めて観ましたが、よくフランス語をしゃべっている自分がいるなと(笑)、緊張しながら観ていました。ようやく日本のみなさまにお届けすることができて感慨深いです」としみじみと語った。
 
ジラール監督と伊原の出会いは5年ほど前。伊原によると「ホテルでオーディションという形で、1時間ほど、本を読むでもなくたわいもないお話をした」とのこと。その後、監督は何人かの俳優と顔を合わせたそうだが、最終的に伊原にオファーした。「たまたま、僕が選ばれまして…(笑)」という伊原の言葉にジラール監督は「たまたまじゃないですよ」と“反論”。伊原が「撮影中に『何で僕を選んだの?』と聞いたら『タイプだったから』って(笑)。『それだけかよ!』って思ったけど。僕のあとで、いろんな人に会ったけど、『一番自然で飾らずに会話していたのが印象に残っていた』ということでした」と出演にいたる前の経緯を説明し、ジラール監督は日本語で「ソウデス」と返し、会場は笑いに包まれた。
日本のシドニー
日本のシドニー
伊原剛志
だが、クランクインの1週間前の段階になって、コロナ禍により撮影が延期。伊原は「4か月かけてフランス語を勉強していたんですが、(撮影が延期になって)1年くらいして、また4か月ほど勉強しました。そういうわけで僕は8か月、徹底的にセリフだけ、Skypeを通して直接、監督にフランス語教わったので、僕のセリフは監督がしゃべっているような感じですね」とふり返る。
 
ちなみに、この監督直伝のフランス語のセリフに関して、伊原は主演のイザベル・ユペールとのエピソードを披露。撮影で来日したばかりのユペールと本読みを行なったが、その後、ユペールから直接、フランス語で話しかけられたそうで「僕は『いや、フランス語はしゃべれないんだ』と英語で伝えたら、『え?だって、しゃべってたじゃない?』と言われて『セリフだけだよ』と。それはちょっと嬉しかったですね。ちゃんとフランス語が届いてるんだなと」と笑顔で明かした。
 
ジラール監督にとっても、伊原とのフランス語レッスンは強く印象に残っているようで「とっても楽しかったです。友情が芽生えました。Skypeで何時間も話しましたし、コロナ禍のせいでいろんな困難もあったからこそ、互いを深く知り合えたと思います。監督と一人の俳優が、これだけ深く知り合えるということはなかなかないことだと思います」とうなずく。
 
撮影期間中、監督と伊原、ユペールで食事に行くことも多かったそう。伊原は、フランスを代表する名女優のひとりであるユペールの印象について「オンとオフがハッキリしていて、撮影中はオンになっていて、役のことしか考えてない真っすぐなひとですが、撮影が終わると普通の女性でした(笑)。オンとオフで全然違って、その集中力がすごかったです」と評した。
 
ジラール監督には、映画を観たばかりの観客から、劇中の幽霊や桜などの描写に関して、特に日本の文化や風習、日本人の死生観から影響を受けた点について質問が飛んだ。ユペール演じる作家のシドニーは、亡くなった夫のアントワーヌのことを忘れられないまま日本を訪れるが、映画の中ではアントワーヌの幽霊が登場する。ジラール監督は、日本とヨーロッパにおける生者と死者の関係性の違いに言及。「フランス人は幽霊を信じないですね。だからフランスではアントワーヌの姿は見えないけど、日本のみなさんは(死者が生者の前に現れることを)信じているから、日本では(シドニーの前にアントワーヌが)現れるわけです。フランスにはないものであり、私自身、日本のみなさんが死者との間に保ち続ける絆をとても愛おしく感じます」と日本への親愛の思いを口にしていた。
日本のシドニー
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