マスタークラス「エリック・ロメール監督との思い出」
12月4日(日)10:00~
ゲスト:パスカル・グレゴリーメルヴィル・プポー(共に『ワン・ファイン・モーニング(仮)』出演)、深田晃司監督
開催場所:旧第一銀行横浜支店
司会:坂本安美
通訳:高野勢子
マスタークラス「エリック・ロメール監督との思い出」
 
フランス映画祭の来日ゲストが登壇する、大学生に向けたセミナー形式のトークイベント「フランス映画祭2022 横浜 マスタークラス」が3年ぶりの対面式イベントを実施。
12月4日、旧第一銀行横浜支店(横浜市中区本町)にて「エリック・ロメール監督との思い出」をテーマに、来日中のパスカル・グレゴリーとメルヴィル・プポー、そして日本からロメールの熱烈ファンを公言する深田晃司監督が参加し、その魅力を語りました。
 
パスカル・グレゴリーはエリック・ロメール監督の『美しき結婚』(81)、『海辺のポーリーヌ』(83)、『木と市長と文化会館/または七つの偶然』(92)などに、メルヴィル・プポーは「四季の物語」シリーズの第3作『夏物語』(96)に出演した経験があり、ともにロメール監督への敬愛は格別。初めて出会ったときの思い出に触れると、2人揃って「彼の事務所で、とてもまずいお菓子を出された」という共通のエピソードが飛び出し、会場は早速笑いに包まれました。
 
映画に加えて、ロメール監督のテレビドラマや演出舞台に出演したパスカル・グレゴリーは「ロメール監督との会話は映画のことに限らず、私の日常や考え方、政治や芸術など多岐にわたりましたし、そういった会話がその後、台本に反映されることも多々ありました」と回想。映画史に名を残す名匠ですが、「いくら有名になっても、彼は小規模の撮影隊を組み、友人とバカンスを楽しむ感覚で、一緒に映画を撮りたいと考えていました。あくまで大切なのは、物語性でした」とその変わらぬ姿勢を語りました。
マスタークラス「エリック・ロメール監督との思い出」
『海辺のポーリーヌ』が話題に挙がると、「撮影監督はどうしてもドリー(車の付いたカメラ移動台)を使用したいと言いましたが、ロメール監督は作為的なカメラワークを嫌っていましたから、なんと宿泊先の清掃員が所有する自動車にカメラを乗せて、みんなでその車を押しながら撮影したこともありました(笑)。まるで自主映画ですよね」。さらに「夜には部屋にこもって、自らフィルムの編集をしていました。朝になると自分で自転車を走らせ、編集したフィルムをパリの映画会社の担当者に送ることも。本当に映画作りが好きなんだと思いました」と秘話を語りました。
 
一方、メルヴィル・プポーは「私の場合、『夏物語』で演じたガスパールという青年は、ロメール監督の自伝的な要素が多く含まれています。イメージに合う役者を長年探していたそうです」といい、「ですから、ガスパールの言動や思考については、ロメール本人を意識して真似ることもあったんです。実はそのことを、撮影後のインタビューで話したら、ロメール監督に怒られてしまったんですが(笑)」とこちらも貴重な裏話。「知的で聡明。それでいて、面白いアイデアが浮かべば、思春期の男の子のように大喜びする。同時に孤独な芸術家気質もあり、そういった要素がまじりあった人だと思います」とロメール監督の人物像を語りました。
マスタークラス「エリック・ロメール監督との思い出」
そんな二人の発言に、深田監督も興味津々。「お二人の話を聞いて、俳優と一緒にもの作りする監督なんだと改めて知り、興味深いですね」と語り、「以前『夏物語』のメイキングを見たことがあり、やはり親密さにあふれる現場を、すごくうらやましいと思いました。カチンコも助監督さんではなく、ロメール監督ご本人が担当しているんですよ」と敬意を新たにしていました。
マスタークラス「エリック・ロメール監督との思い出」
深田監督のコメントに対し、今度はメルヴィル・プポーが「そうですね、確かに助監督さんはいませんでした。ロメール監督本人が私たちに『明日の撮影は○○時からです』って伝えに来たり、サンドウィッチを配ってくれたり。何事も他人任せにせず、細かいことまで自分でやっていました」と回想。パスカル・グレゴリーも「ロメール監督の現場は、みんなが何でもやるんです。カメラを持って、食事の支度を手伝って、車を押して(笑)。そうすることで、現場のみんなが自由になれる。今の時代は、誰もが自分の職種の範疇を超えたことは『してはいけない』とされていますね」とロメール監督ならではの現場の雰囲気を話していました。
 
最後に「エリック・ロメールが世代を超えて愛される理由は?」と問われると、パスカル・グレゴリーは「国際的な映画監督として尊敬され、ひとつの模範、そして理想の存在だからだと思います。彼のユニークな独自性に触れると、他の監督の作品はどれも似ているように見えてしまう。ロメール監督にしか作れない映画を撮り続け、独自のアートを生み出した。それに常に未来志向なのも魅力です」と力説しました。
 
メルヴィル・プポーは「ショットも編集も非常に厳格で、緻密に準備していますが、俳優のアドリブを許容する余地もある監督でした。何よりの強みは、ストーリーテリング。そういう意味では、ウディ・アレンも似ているかもしれませんね。とにかく、彼のような才能とインスピレーションにあふれた人物と出会えることは、人生のうちにそうそうありません。永遠の青年でした」とリスペクトを払い、深田監督は「ロメール監督に憧れて、映画を撮り始め、常に『ロメール監督だったら、どうするだろう?』と考えながら撮影をしています。題材の目新しさではなく、その視線が現代的だからこそ、いつまでも作品が古びない。20世紀の映画であり、21世紀の映画なんです」と強い思い入れを示していました。
 
マスタークラス「エリック・ロメール監督との思い出」
マスタークラス「エリック・ロメール監督との思い出」

旧第一銀行横浜支店を会場にマスタークラスが開催されました。