フルタイム』上映後Q&Aレポート
上映日:12月3日(土)18:30~
ゲスト:エリック・グラヴェル監督
MC:佐藤久理子
通訳:人見裕子
 
「フランス映画祭2022横浜」が開催中の横浜ブルク13にて12月3日、『フルタイム』が上映されました。上映後には、本作が高く評価され、昨年のヴェネツィア国際映画祭でオリゾンティ部門の監督賞に輝いたエリック・グラヴェル監督が舞台挨拶・観客とのQ&Aに参加しました。
フルタイム
主人公は夫と離婚し、田舎町での子供2人の育児と、パリの高級ホテルでのハウスキーパーの仕事に奔走しているジュリー。かねてから希望していた職種の面接にようやくたどり着いたその時、ゼネストの影響で公共交通機関が麻痺してしまい、ギリギリのバランスで保たれていたジュリーの生活がぐらつき始めてしまいます。状況を打開するために、すべてを失うリスクを冒して全速力で走り回るジュリーの運命は?
 
働く女性の苦労や大変さがリアルに、繊細に描かれている本作。司会者から「予備知識なしに見たが、てっきり、監督は女性かと思った」と驚きの声があがると、エリック・グラヴェル監督は「私自身、舞台となる田舎町に10数年暮らしています。パリに行くには電車に乗りますが、いつも一緒になるのは、同じ顔ぶれ。私には家族がいますが、もっと孤独に、もっと脆弱な生活を送っている人もいるのでは? 何か問題が生じれば、大変だろうなと。そういった自分のなりの視点とアプローチで映画を作ろうと思ったのです」と着想を明かしました。
 
本作の重要なエッセンスとして描かれるのが、公共交通機関のストライキ。フランスのストライキといえば、近年では黄色いベスト運動を連想させますが、「私自身はカナダ出身で、1995年秋に留学した機会があり、まさにそのとき、ストライキが起こり、町全体が麻痺する様子を目の当たりにしました」と回想。その上で「たくさんの人が困るという現実があると同時に、そこには助け合いの連帯感も生まれていた。矛盾しているように思える様子が興味深く、これがフランスの現実なんだと実感したのです」と語りました。
フルタイム
主演を務めるのは、現在フランス映画界で躍進するロール・カラミー。本作での演技が評価され、ヴェネツィア国際映画祭でオリゾンティ部門の主演女優賞を受賞しています。エリック・グラヴェル監督は「シリアスからコメディまで、演技の幅が広い俳優です。苦しい状況に追い込まれる役どころですが、苦しみながらも、希望の光をもたらす輝きを持っています」と絶賛しました。また「私自身、彼女からの提案を喜んで受け入れていましたし、二人で試行錯誤しながら、ジュリーという人物像を発見し、作り上げていきました。その過程で、彼女は惜しみなく献身してくれました」と感謝を示しました。
 
撮影はコロナ禍で行われ、「交通機関での撮影では、乗客のほとんどがマスクをしていました。もちろん、スタッフも着用しつつ、キャストとエキストラは本番の直前でマスクを外すことになりました」と舞台裏を告白。外出する人も普段よりは少なかったそうで「主人公が物理的にも、精神的にも孤立している状況を捉えたかったので、その意味では好都合でした」。また、焦点距離の長いカメラを使用し「遠くのものを眺める余裕はなく、目先のことにばかり気が向いている。そんな近視眼的な彼女が、孤立している構図を演出しました」とこだわりを語っていました。
 
 
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