上映日:2024年3月24日(日)10:00
ゲスト:シリル・ディオン(監督)
場所:横浜ブルク13
映画監督、作家、詩人、環境活動家という顔をもつシリル・ディオン監督は、『イングロリアス・バスターズ』などに出演する女優のメラニー・ロランと共同監督で2015年に『TOMORROW パーマネントライフを探して』を発表。同作では、未来を幸せに暮らすための新たなライフスタイルを提唱するパイオニアたちに焦点を当てた。
それ以来の新作となる『アニマル ぼくたちと動物のこと』は、気候変動と種の絶滅の危機が大きなテーマ。動物保護と気候変動問題に取り組むベラとヴィプランというティーンエイジャーとともに世界をめぐる旅に出ている。
まずシリル監督は「2018年から定期的に環境活動家のグレタ・トゥーンベリが主体となって始まった気候変動学校ストライキ (School Climate Strike) 運動に参加して、実際のデモにも参加していた。そこで、若い世代の子どもたちが自分の将来、世界の未来について絶望感にとらわれていることを実感しました。若い世代の子どもたちになにか明るい展望となりえるヒントのようなものが与えられないかと考えて、このような旅に出ることにしました」と作品の出発点を明かした。
作品の主人公となるベラとヴィプランとは、ヴィプランについては先述したデモで、ベラについてはTwitter(現 X)を介して出会ったのこと。ベラに関してはSNS上で「一度会いたい」と連絡を入れてかなり怪しまれたが「無事、ロンドンでお母さん同席のもとで会うことができました」とその舞台裏を明かした。
ベラとヴィプランの旅は、古生物学者アンソニー・バルノスキーから種の絶滅の5つの原因を教わるところからスタート。そこからインドの海岸ではプラスチック汚染について、フランスでは温室効果ガス排出量の約15%を占めている畜産業の実態などをめぐり、二人はその悲劇的な現実を目の当たりにし、当事者の声に耳を傾ける。また、環境に関する政治会議へも足を運ぶ。
その物語は、一向に改善がされない世界各国の対応を厳しく批判。ただ、一方的に糾弾するだけに終わることなく、世界が力を合わせ強調する道があることを伝える。このようないわば二部構成の内容にした理由についてシリル監督は「社会を抜本的に大きく変革しようとするとき、わたしは2つの動きが必要ではないかと考えています。一つは現実を直視して、その問題に対してきちんと怒りや嘆きの声をきちんとあげること。でも、怒りの声を政治家や企業のぶつけているだけではなかなか現状は打開できない。だから、もう一つの動きが必要。それは新しい価値観や新し社会の在り方を粘り強く提示いくことです。この二つの動きを並行して進めることで、社会や人々の意識は変わっていく。やがてそれは大きな動きになっていくと思います。そういう考えのもと、前半は気候変動による環境の危機と種の絶滅という現実を見せ、後半はそれを解決するためには世界の協調と新たなビジョンが必要ということを示す構成になりました」
また、作品を通して監督自身はどういうことを考えたかという質問に対し、シリル監督は「自分を取り巻く自然や環境について、いかに自分が何も知らなかったかということを痛感しました。
映画で描かれていることですが、あそこまでアリが自然環境にとってとても大事な存在だとは知りませんでした。(作品の中に)ケニアの研究者が出てきますが、、彼はこんなことを言っていました。『人間は愛する者しか守ろうとしない。知らない者のことを愛することがない』と。この言葉を聞いたときにハッしました。 環境問題にしても種の絶滅に関しても、まずは知ることが大切。知識があってそのことを知っていれば、自然と守ろうという意識が芽生えるのではないかと思いました。たとえば近所で鳥が鳴いていて、なんとなく気になって調べてみる。そこでなんという鳥かがわかるとちょっと愛着がわいたりしますよね。そういうことが大切なのではないかと考えました」と語った。
さらに環境問題という世界的な問題にどう向き合えばいいのかということについてシリル監督は「あまりに大きな問題で自分一人ではどうにもならない、何も変えることはできないとつい思いがちです。でも、ガンジーもキング牧師もはじめは一人でした。僕らと同じように市民でした。ですから、何か自分が信じることがあれば、もうためらうことなく最初の一歩を踏み出してください。その小さな一歩から、もしかしたらそこから大きな動きが生まれるかもしれない。一人一人が情熱をもって目的意識をもってアクションを起こすことが大事だと思います」と言葉を寄せた。
最後にシリル監督はこの日集まった人々にひとつお願いと言って、「今日、この会場でこの作品をみてくださった方は、周囲の人にこの映画を見るよう薦めてください。ひとりでも多くの人が(この作品を)見ることで事は前進するとわたくしは信じています」とメッセージを寄せ、フォトセッションを笑顔で終えると会場を後にした。