ワン・ファイン・モーニング(仮)』上映後Q&Aレポート
上映日時:12月3日(土)20:50~
ゲスト:パスカル・グレゴリー(出演)、メルヴィル・プポー(出演)
MC:佐藤久理子
通訳:人見裕子
ワン・ファイン・モーニング(仮)
 
「フランス映画祭2022横浜」が開催中の横浜ブルク13にて12月3日、フランスを代表する国際派スターのレア・セドゥが主演する『ワン・ファイン・モーニング(仮)』が上映されました。上映後には、出演するパスカル・グレゴリーとメルヴィル・プポーが舞台挨拶・観客とのQ&Aに参加。2人が登壇したのは、22時50過ぎと遅い時間帯でしたが、多くのファンが人気俳優の発言に耳を傾けていました。
 
夫を亡くした後、翻訳の仕事につきながら一人で8歳の娘リンを育てているサンドラ(レア・セドゥ)は、忙しい仕事の合間を縫って、神経変則疾患の病気を持つ年老いた父親ゲオルク(パスカル・グレゴリー)を見舞っている。さまざまな問題に直面し、不安と孤独を抱える彼女は、かつて友人だった既婚の男性クレマン(メルヴィル・プポー)と再会し、自分のことを理解してくれるクレマンと過ごしているうちに、次第に恋に落ちていく。
 
俳優・監督として活動し、2016年には『未来よ、こんにちは』で、ベルリン国際映画祭監督賞を受賞したミア・ハンセン=ラブがメガホンをとった本作。パスカル・グレゴリーとメルヴィル・プポーの二人はともに、ミア・ハンセン=ラブ監督の作品に初めて出演しています。
 
大ベテランのパスカル・グレゴリーは「脚本を読んで、挑戦しがいのある役だなと思いました。『未来よ、こんにちは』はすでに鑑賞していて、監督の世界観もある程度理解していたので、断る理由はありませんでした」と出演を決めた理由を説明。
ワン・ファイン・モーニング(仮)
父親ゲオルクは、ミア・ハンセン=ラブ監督の実の父親がモデルになっており「幸い、実の父親の肉声が録音された音声を聞くことができました。(神経変則疾患の影響で)会話に脈略がない場合もありましたが、役を演じる上では非常に重要なエレメントになったのです。そのおかげで、撮影初日から役になりきることができました」と話していました。
 
メルヴィル・プポーも「早く彼女からオファーが来ないかと、待っていました。監督の作品は大好きですし、とても関心があったからです」とミア・ハンセン=ラブ監督との初タッグに喜びの声。自身の役どころは「サンドラにとって、希望と幸せをもたらす救世主。魅力的な王子様であり、理想の存在」だといい、「そういう役を演じられるのもラッキーだし、何より長年親交があるレア・セドゥ(日本語で)“さん”と共演できるのもうれしいこと。友人同士ですから、官能的なシーンも躊躇なく演じることができました」と振り返りました。
ワン・ファイン・モーニング(仮)
また、自身が演じるクレマンについては「ゲオルクが監督の父親をモデルにしているのと同様に、クレマンもまた、監督のフィアンセがモデルなんだ」と驚きのエピソードも。「劇中の会話なども、監督が実際に経験したことに基づいているんだ。フィアンセ本人に会う機会もあったから、役作りというよりは、彼の人物像を再現しようと思っていました」と演技のアプローチを語りました。
 
ミア・ハンセン=ラブ監督は、フランス映画界の名匠であるエリック・ロメール監督に強く影響を受けていると言われています。そして、パスカル・グレゴリーは『美しき結婚』(81)、『海辺のポーリーヌ』(83)、『木と市長と文化会館/または七つの偶然』(92)といったロメール作品に出演。メルヴィル・プポーも『夏物語』(96)に出演しているため、観客からは「ミア・ハンセン=ラブ監督の演出や手法に、ロメール監督の影響や共通点を感じましたか?」と質問が投げかけられました。
 
「ロメール監督はある種、強迫観念のように『観客にカメラの存在を想像させないこと』を大事にしていました。ですから、特殊効果や移動撮影はせず、ショットの正確さを求めていました。機材をあまり使わない点も含めて、それはミア・ハンセン=ラブ監督も共通しているのではないしょうか。一方でロメールの語り口には、フランス文学伝統の軽妙さがあり、ミア・ハンセン=ラブ監督の世界観はもっとドラマチック。イングマール・ベルイマン的とでも言うべきでしょうか」(パスカル・グレゴリー)
 
「この作品にパスカルと僕を起用しているというのも、ある種、ロメール監督へのオマージュと言えますね。35ミリフィルムで撮影を行っていて、そこにはフランス映画の伝統を受け継ごうという意志も感じます。あえて、違いがあるとすれば、ミア・ハンセン=ラブ監督の作品は自伝的。一方、ロメール監督はもっと寓話的で、コミカルな要素も含まれていると思います」(メルヴィル・プポー)
 
改めて、『ワン・ファイン・モーニング(仮)』という作品に込められたメッセージに話題が及ぶと、パスカル・グレゴリーは「人間は苦しいときこそ、愛やパッションを求めますし、逆説的に人を愛するからこそ、苦しみもあるのです。これは人間の非常に興味深い一面でしょう。ですから、苦しみを前向きに捉えるべきですし、苦しみのない人生は無意味ともいえるのです」と静かに力説。メルヴィル・プポーは「生と死は、ときに人生にバランスをもたらしてくれるもの。苦難があっても、必ず希望はあるのです。監督が希望あふれるタイトルを選んでいるのも、そういう理由だと思います」と語っていました。
 
ワン・ファイン・モーニング(仮)