フランスのストップモーション・アニメーションの世界』上映後Q&Aレポート
上映日:2022年12月3日(土)11:50~
MC:東野正剛
通訳:高野勢子
 
「フランス映画祭2022横浜」が開催中のkino cinema横浜みなとみらいにて12月3日、『フランスのストップモーション・アニメーションの世界』の上映が行われました。
上映されたのはエロイーズ・フェルレ監督の『風の娘たち』『くすんだ海』、ルイーズ・メルカディエ&フレデリック・エヴァン監督の『姉妹』、クロエ・アリエズ&ヴィオレット・デルヴォワ監督の『崩れる関係』、ブリュノ・コレ監督の『記憶』、サラ・ヴァン=デン=ブーム監督の『レイモンド、もしくは縦への逃避』の計6本の短編作品。上映後には、来日中の監督陣が舞台挨拶・観客とのQ&Aに参加しました。
 


<前半>
上映作品&ゲスト
『風の娘たち』『くすんだ海』 エロイーズ・フェルレ監督
『姉妹』 ルイーズ・メルカディエ&フレデリック・エヴァン監督
フランスのストップモーション・アニメーションの世界
 
■エロイーズ・フェルレ監督 『風の娘たち』『くすんだ海』
今回が初来日となり「第一印象は、ごはんがおいしいことですね」と笑顔を見せ、幼い少女の希望と成長を描いた「風の娘たち」については、「3分くらいの作品ですが、完成までに7ヶ月、準備を含めると1年くらいかかりました」と撮影を振り返りました。また、家族の再生を描く「くすんだ海」については、身近にいた友人が題材になっていると明かし、「劇中には描いていませんが、彼の母親は薬物中毒の問題を抱えていました」と作品の着想をコメント。
フランスのストップモーション・アニメーションの世界
観客から「劇中に登場する折り鶴の意味は?」と問われると、「折り鶴は軽いので、何かあってもつぶれたり、壊れたりしません。劇中の母親を悪者にしたくはありませんでしたし、彼女に前向きな気持ちになって、母親としての意識を取り戻してほしいという思いも込めています」と回答。また、スタジオジブリ作品にも語り、「『もののけ姫』をはじめ、女性の強さが描かれているのが魅力です」と話していました。
 
 
ルイーズ・メルカディエ&フレデリック・エヴァン監督 『姉妹』
ふたりとも初来日。「エロイーズ・フェルレ監督がおっしゃる通り、確かにごはんおいしいし、暖かい歓迎を受けています」(ルイーズ・メルカディエ監督)、「映画『ロスト・イン・トランスレーション』の気分を味わっています」(フレデリック・エヴァン監督)と初めて日本の地を踏んだ感想を教えてくれました。
 
水没の危機に直面した三姉妹の関係性の揺らぎを描いた『姉妹』について、ルイーズ・メルカディエ監督は「気候変動をテーマにしたというよりは、身の回りで起こる大きな変化をいかに受け止め、どう反応するかと描いています」。日本文化への関心を問われると、ルイーズ・メルカディエ監督は「作品に登場する人形は、中世ヨーロッパの彫刻家の作品からインスピレーションを受けていますが、実は彼らは日本文化の影響を受けていたそうです。つまり、間接的には私たちも日本文化から影響を受けたのです」。フレデリック・エヴァン監督は「小津安二郎監督、溝口健二監督から影響を受け、長回しや画面のフォーカスに活かしています」と話していました。
フランスのストップモーション・アニメーションの世界
フランスのストップモーション・アニメーションの世界
 
 

<後半>
上映作品&ゲスト
『崩れる関係』 クロエ・アリエズ&ヴィオレット・デルヴォワ監督
『記憶』 ブリュノ・コレ監督
『レイモンド、もしくは縦への逃避』 サラ・ヴァン=デン=ブーム監督
フランスのストップモーション・アニメーションの世界
 
■サラ・ヴァン=デン=ブーム監督 『レイモンド、もしくは縦への逃避』
セックス、愛、広大な空を望む主人公レイモンドの心象風景を描く本作。「私が日頃から感じている、人間関係の複雑さ。それに、単純なことを複雑に考えてしまう傾向は誰しもあると思います。そういったテーマを、ピュアで真面目な主人公が、周りと馴染めずにいる姿を通して、描こうと思いました」とユニークな作品が生まれた背景を語りました。
フランスのストップモーション・アニメーションの世界
主人公レイモンドの顔が、フクロウをモチーフにしている理由については「見た目は良いですが、表情が読めない。そんなフクロウの特徴が、コミュニケーションに問題を抱えるレイモンドにピッタリだと思ったのです」と説明してくれました。声を演じるのは、フランス映画界の大スターであるヨランダ・モロー。「まさか、オファーを引き受けてくれるとは。地方に暮らす、地に足ついた女性を見事に演じてくださいました」と感謝を表していました。
 
 
■ブリュノ・コレ監督 『記憶』
世界各国で50以上の賞に輝き、アカデミー賞の短編アニメーション部門でもノミネートされた『記憶』。以前から、アルツハイマーを題材にした作品を作りたいと思っていたそうで、「どういう視点が良いのか。リサーチを重ねるうちに、実際にアルツハイマーを患う画家を知りました。彼は症状が進むなか、自分の変化を自画像で描き続けていたのです。まるでゴッホのように、だんだん筆のタッチも荒くなります。なるほど、本人の視点から(アルツハイマーを)描くことができるのかと思ったのです」と着想を教えてくれました。
フランスのストップモーション・アニメーションの世界
アヌシー国際アニメーション映画祭では10代の観客にも支持されたそうで「若い彼らが、家族全体の問題だとして受け取ってくれた」と予想外の反響に監督自身が感銘を受けた様子。劇中に登場する人形はラテックスが素材になっており、「骨格が入っているので、自然に動くように見えています」と舞台裏を明かしてくれました。
 
 
■クロエ・アリエズ&ヴィオレット・デルヴォワ監督 『崩れる関係』
仲間たちが集まる楽しいパーティ。しかし、参加者の隠れた感情があらわになり、関係が崩れていくという物語。クロエ・アリエズ監督は「まさに若者へのメッセージです。グループに属すると、他人の違いを受け入れたり、自分のことを受け入れてもらうことは大変ですよね。でも、諦めずに頑張ってと伝えたい」といい、キャラクターの顔がスイッチになっている理由は「スイッチって顔に似ているし(笑)、自分の身の回りにあるものに、違う人生を与えられたら、面白いなと思ったのです」と話していました。
フランスのストップモーション・アニメーションの世界
共同監督における役割分担について問われたヴィオレット・デルヴォワ監督は、「シナリオはクロエが思春期に体験した経験がベースになっていて、私は絵コンテから参加し、物語の流れをつけていきました」と回答していました。
フランスのストップモーション・アニメーションの世界