フランス映画2022 横浜 マスタークラス「フランスの若手俳優がキャリアと映画を語る」
開催日:2022年12月2日(金)10:30~12:00
開催場所:横浜市立大学 金沢八景キャンパス
ゲスト:アナマリア・ヴァルトロメイ(『あのこと』俳優)、バンジャマン・ヴォワザン(『幻滅』俳優)
毎年、映画祭会期中に行うマスタークラスでは、フランス映画祭の来日ゲストが登壇し、大学生に向けたセミナー形式のトークイベントを行っています。今年は3年ぶりに対面式のイベントが実現。今、フランスで注目の若手俳優アナマリア・ヴァルトロメイさんとバンジャマン・ヴォワザンさんが、日本の若者に向けて、彼らのキャリアと映画について語る機会となりました。
デビュー作となる『ヴィオレッタ』で来日したこともあるヴァルトロメイさんは、「前回とまったく変わっていないことに驚いています。そして前回と変わらず日本の皆さんが本当に親切で、快適に過ごしています」とあいさつ。バンジャマンさんも「日本に来て48時間しかたっていないですが、すでに日本に恋をしています。日本の夜の姿も、昼の姿も両方とも体験しています。ユニフランスのおかげでもう少し滞在することができるので、今からワクワクしています」と笑顔を見せました。
若い時から俳優という仕事に従事してきた二人。この仕事についたきっかけについて「わたし自身は偶然ですね」と語るヴァルトロメイさんは、「子どもの頃は歌とかダンスを学んでいたんですが、映画に親しんでいるような家庭ではなかったんです。ただ工務店の仕事をしていた父が、たまたま俳優の家の工事をすることになって。そこでエヴァ・イオネスコという監督が女の子を探しているという話を聞いて。オーディションを受けることになり、そこで起用されることになりました。そしてその時のすばらしい撮影体験が女優の道へと進むきっかけになりました」とその経緯を説明。
一方、「僕自身のデビューはアナマリアほど若くなくて。高校生くらいだった。当時は文学が好きで、クラスでは一番後ろにいるような生徒でした」と語るバンジャマンさんは、「ただ本を読むのが好きだったんで、授業中に本を読んだり、ディクテーション(聞き取り)をするような時はわりとみんな聞いてくれていたんですよね。そういうこともあって両親も、演劇学校に行けば、今みたいにいたずらばかりしないだろうと思って、学校に入れてくれたわけです。ただ正直言うと、演劇学校では派手ないたずらをしてたんですけどね(笑)。ということで、自分の場合は文学、演劇から入っていったキャリアです」と明かしました。
そしてスクリーンではヴァルトロメイさんのデビュー作『ヴィオレッタ』の抜粋映像を上映することに。すると思わず顔を手で覆って照れくさそうな表情を見せるヴァルトロメイさんの姿に会場は笑顔に。そして映像上映後にその時のことをあらためて振り返ったヴァルトロメイさんは、「この時は、女優という職業がこういうことだということを明確に実感できた撮影でした。スタッフも好意的でした。監督の暴力的な幼少期のことを吐き出して、それを映像化するというデリケートなテーマでしたが、みんなが尊重してくれた。わたしは子どもだったからよく分からなかったですが、両親が毎日付き添ってくれて。健全で、バランスのいい撮影を送ることができました」と述懐。
さらに「何よりラッキーだったのが、大女優のイザベル・ユペールと共演できたこと。本当に圧倒されましたが、ただ会うのが早すぎたかもしれません。今ならこういう風にするのかと、技術を学ぶこともできたかもしれませんが、当時はまだ子どもだったんで、それはできなかったですね」と付け加えました。
さらにヴォワザンさんの主演作となるフランソワ・オゾン監督の映画『Summer of 85』について。「オゾン監督と仕事をするのは本当にスーパークール。彼は撮影が本当に早くて。リハーサルを入念にやるタイプではないんで、一回リハーサルをやって、技術的なことが整ったらすぐに撮影。テイクもだいたい1テイクで、マックスで2テイクという感じ。時間的にはスゴく早いタイプでしたね」と明かすヴォワザンさん。
そんな二人が、役を決める時の基準とは? まずはヴァルトロメイさんが「わたしは『あのこと』という作品に出演していますが、その前はシナリオに裸になるシーンが出てきたら絶対にお断りしていたんです。でもこの作品は、若い女子学生が妊娠をして、変化していく身体を発見していく話なので。この作品に関しては裸になることに説得力がありましたし、意味があると思いました。そういう意味ではシナリオを読んでジャッジするということはあります。あとは監督との出会いが大きいですね。やはり最初は自分にできるのだろうかという不安、緊張、プレッシャーなどがありますが、自分のことを好意的に見守っている人たちに囲まれていると、リミットを外すことができるんです」とコメント。
対するヴォワザンさんは「僕もアナマリアと一緒で。裸のシーンがあったら断っていた」と冗談めかして会場を沸かせると、「今までは男性の監督がオブジェのように女性のヌードを撮るというのが慣例としてありましたけど、この時代は逆をやってもいいんじゃないかと思うんです。僕自身、男優として映画でヌードになるのはオッケーですが、でもアナマリアの言うことには同感です。あとは選ぶ基準はお金かな(笑)。というのは冗談だけど、こればっかりはケース・バイ・ケースですね」と付け加えました。
妊娠中絶が違法だった1960年代のフランスを舞台背景とした『あのこと』のシナリオ・原作を読んで「怒りの感情がわき起こりました」というヴァルトロメイさんは、「その怒りは二つの方向に向けられていました。そういう事実をまったく知らなかった自分自身に対しての怒り。そしてそういう事実がなんて不条理なのかという怒りでした。そしてこれまで映像化されてこなかったこの問題を映像化するということに責任があるなと感じましたし、わたしのキャリアの中でも語るべき必要性がある作品だなと感じていました」。
一方、ヴォワザンさんが出演する『幻滅』は、純朴な青年が都会の洗礼を受けて、当初の目的を忘れ、欲と虚飾と快楽にまみれた世界に身を投じていくさまを描き出す作品。「共鳴する部分はありますね。それはすべての分野でそういう危険性があると思います。特にアート系の仕事は厳しくて、残酷な現実に直面することも多い。僕がこの作品で表現したかったのがリュシアンのナイーブさ。そこが僕自身も惹かれているところでもあります」と付け加えました。
そして会場から「俳優の楽しさとは?」と質問を受けると、まずはヴァルトロメイさんが「俳優の楽しさは、撮影でスタートとカットがかかる間がとてもマジカルだということ。そこに俳優として身を投げ出して、その役柄に埋没する喜びは、言葉で表現できないような快感。それができた時にキャラクターは浮かび上がってくるんですが、そうなることはいつもでなくてまれなこと。だからこそ、そういう時の快感もひとしおなんですよね」と笑顔でコメント。続くヴォワザンさんも「これがあるからこそ俳優の喜びもひとしおなんだろうな、ということがあります。それは、他の人物になりきるということで、実は自分探しをしているということ。自分とかけ離れた人物を演じながら、自分のことを理解していく。そんな仕事はほかにないんじゃないでしょうか。それは本当にぜいたくなことだと思います」と語りました。
そんな濃密なトークが終わった後は、大勢の観客からのサインや写真撮影などにも気さくに応じた二人。つかの間の交流を楽しんでいる様子でした。