アイディアル・パレス

ニルス・タヴェルニエ監督。Q&Aにて

 
アイディアル・パレス シュヴァルの理想宮(仮)』上映後Q&Aレポート

上映日:2019年6月23日(日)16:45
ゲスト:ニルス・タヴェルニエ(監督)
MC:佐藤久理子
通訳:人見有羽子

6月22日(土)イオンシネマみなとみらいにて『アイディアル・パレス シュヴァルの理想宮(仮)』の上映後に、ニルス・タヴェルニエ監督によるQ&Aが行われた。
登壇するやいなや、ポケットからスマホを取り出し「最初に皆さんの全体写真を撮らせてください。僕も新世代の一人ですので」と壇上から客席を撮影したタヴェルニエ監督。

「実は、ここ横浜は、25年前、私が最初の短編映画を撮ったとても大切な場所」と明かし、「監督として私がもっとも興味があるのは、観客の皆さんの反応です。今日は皆さんの意見をお聞かせいただければと思います」と挨拶した。

『アイディアル・パレス シュヴァルの理想宮(仮)』は、19世紀末のフランスを舞台に、ある郵便配達員が愛娘のために33年に歳月をかけ、石を積み上げて一人で築き上げた「おとぎの国の宮殿」の誕生秘話と、家族の絆を描いた物語。
ピカソやアンドレ・ブルトンからも絶賛され、フランス政府指定の重要建造物にもなった理想宮を、たった一人で作り上げたシュヴァルという男性は、いったいどんなことを考えていたのか。そんな男の頭の中身を知りたくて、タヴェルニエ監督は彼の人生を映画化しようと考えた。

タヴェルニエ監督は「彼のすごいところは、33年もかけて子どものための遊び場を作っていたこと。あの宮殿には、寝室もなければ、台所もない。つまり、もともとそこで暮らすために作っていたわけではないんです。子どもたちが隠れん坊する遊び場を作るために、あれだけの時間を費やしたという事実が何より素晴らしい」とシュヴァル氏の功績を称えつつ、「そんな彼の物語の価値を出来る限り高めたいと考えてこの映画を仕上げた」と、本作の製作意図についても語っていた。

シュヴァルについて「自分の自由さを貫き通した結果、生きているうちに国際的な評価を享受できたという意味では、非常に稀有な人物でもある。ロッキーとか『リトルダンサー』のビリー・エリオットのように、さまざまな障害を乗り越えて夢を叶える、非常に映画的な英雄なんじゃないか」と分析。

さらにシュヴァルが「アニミズム的な信仰があること」や「マルチカルチャーを独学で吸収した人物でもあった」こと、そして「アートセラピーというものが、まだ存在しない時代から、それに近いものを自ら編み出していた人物でもある」ことについても語り、「彼には自閉的なところもあったけれど、ひきこもるのではなく、自ら行動を起こす自由さを持ち合わせ、同時に自分を改変していける力も持っていた。だからこそ彼は単なる平凡な郵便配達員ではなく、映画的なヒーローと言えるんだ」と強調した。

一方、「映画の撮影のために宮殿を再現したのか」という質問には「実は今回の撮影のために唯一作ったのは、宮殿のアーチ型の扉だけなんです。というのも、おそらく彼が最初に着手したのが、扉だったのではないかと考えたから。制作途中はすべて実物をもとにCG処理で作り、完成形のみ実際の宮殿を撮影した」と制作過程を明かした。
そのほか、劇中では自宅の窓越しに見える場所に宮殿を建てているが、実際には「自宅と宮殿は車で1時間半くらいかかる場所だった」と語った。

そして最後にタヴェルニエ監督は、シュヴァル役を演じた俳優のジャック・ガンブランについて「彼は世界で最高の俳優の一人。立ち姿だけで表現することが出来る」と絶賛。「シュヴァルは共感を呼びにくいキャラクターであるにも関わらず、彼が演じることによって観客が共感することができる」。ジャック・ガンブランが、いかに稀有な俳優であるかを観客に強く訴えた。

アイディアル・パレス シュヴァルの理想宮(仮)』は今冬公開予定。
 

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