男と女 人生最良の日々

岸惠子さんと握手をするクロード・ルルーシュ監督

 
BS10スターチャンネル特別上映
男と女 人生最良の日々』イベント、Q&Aレポート

開催日:6月21日(金)20:05~
ゲスト:クロード・ルルーシュ(監督)/ 岸惠子(作家、女優)
MC:矢田部吉彦/セルジュ・トゥビアナ(ユニフランス・プレジデント)
通訳:福崎裕子

フランシス・レイを追悼し、「慶応義塾大学 ライト・ミュージック・ソサイェティ」によるフランシス・レイの名曲「Un Homme Et Une Femme」from『男と女』、「13 Jours En France」from『白い恋人たち』、「Love Story」from『ある愛の詩』の3曲の演奏が行われた。

名画を彩った美しい音楽の演奏の後、ユニフランス・プレジデントのセルジュ・トゥビアナから、「フランス映画祭2019 横浜」の代表団・団長として13年ぶりの来日を果たしたクロード・ルルーシュ監督が紹介された。

「本作のテーマは、時間愛、記憶、人生です。『男と女 人生最良の日々』は、クロード・ルルーシュ監督の49本目の作品となります。今、監督は50本目の仕上げをしている最中です。たぐいまれな実績をもち、世界的にも有名な監督でいらっしゃいます。心から映画を愛し、映画を生き、映画がその呼吸にもなっている。映画人間、映画の人、クロード・ルルーシュ監督です!」
そして盛大な拍手の中、客席からクロード・ルルーシュ監督が壇上へ。特別ゲストとして女優の岸惠子さんも登場した。

男と女 人生最良の日々

客席から登場したクロード・ルルーシュ監督

 
岸さんはパリで暮らしていた当時、ルルーシュ監督のオフィスのはす向かいに住んでおり、「監督の素晴らしい試写室で、素晴らしい作品を沢山拝見させていただきました。アヌーク・エーメとも親しかったので、『男と女』は何度も観ました」と振り返った。
さらに、53年ぶりの続編である『男と女 人生最良の日々』に「ひどく感動した」という岸さんは、「53年経ったジャン=ルイ・トランティニャンのクローズアップの顔を見た途端、あまりに魅力的で、こういうフランスの文化的土壌は日本にはないなぁと羨ましく思いました。皆さん、出だしをよく見てください」と本作を絶賛。
「二人の老い方がとっても素敵だと思いました。日本でも若い人の話ばかり作らないで、年寄りがたくさんあふれているのですから、大人が観るのに耐えうる映画を作ってほしいと思います」とコメントすると、会場からは大きな拍手が沸き起こった。
男と女 人生最良の日々

上映前のトークイベント

 
そしてクロード・ルルーシュ監督は上映に先立ち、こう締めくくった。

「今日ここに来ることができて、とても嬉しく思っています。53歳若返ったような気持ちです。なぜなら私は、53年前、東京に『男と女』と共に来日しました。その時、53年後にこの映画のエピローグを携えて東京を再訪することになろうとは、想像すらしませんでした。この映画をご覧いただければ、私にとってこの映画がどれほど重要な作品なのか、皆さんにもお分かりいただけるのではないかと思います。
同じ監督が、同じ俳優を使って、53年後に同じストーリーを撮ると言うこと。これは映画史上でも今までにないことです。
最後に、フランシス・レイに対してオマージュを捧げたいと思います。フランシス・レイは、私の映画35本の映画音楽を作曲してくれました。今からご覧いただく映画の音楽を作るだけの時間を取ってくれました。それは彼が去ってしまう直前のことでした。
そしてもう一言。ピエール・バルーにもオマージュを捧げたいと思います。ピエール・バルーは「男と女」の歌詞を書いた人です。彼は幸せなことに日本人の奥さんをもらって、一生かけて日本を愛しました。そして私に日本の素晴らしさを伝えてくれた人です。

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上映後にはクロード・ルルーシュ監督が再び登壇し、Q&Aが行われた。

MC:まずは、この作品がどのような経緯で誕生したのか教えて下さい

監督:続編を作ろうなどとは、想像すらしていませんでした。今回の映画は、まさに奇跡だと思います。奇跡は説明が付きません。今日、ジャン=ルイ・トランティニャンはまだ生きています。アヌーク・エーメも生きています。そして私も生きています。それ自体が既に何にも代えがたい奇跡ではないでしょうか。『男と女』に関わった技術者たちは、全員亡くなってしまいました。そしてこの映画の音楽を作曲した直後に、フランシス・レイも我々のもとを去ってしまいました。
『男と女』の50周年を記念してリストア版が作られた時に、ジャン=ルイ・トランティニャンとアヌーク・エーメが上映に来てくれました。その2人の様子を見ながら、私はこの映画のアイデアを思いついたのです。今から2、3年前のことでした。

男と女 人生最良の日々

クロード・ルルーシュ監督。上映後のQ&A

 
Q&Aでは、会場から「映画の持つ力」に関する質問が投げかけられた。

監督:愛をもって何かをなす時、その何かはとても簡単にできてしまいます。幸運なことに、82年間私は映画に恋をし、人生に恋をし、この2つを愛し続けてきました。この二重のラブストーリーのおかげで、私は50本の映画を作ることができたのだと思います。私は映画を作るときに努力をしたという感覚をもつことありません。ただ、ただ、喜びがあるだけです。愛をもって何かをなす時、それは休暇に入るのと同じです。私は生涯ずっとバケーションの時を過ごしてきました。これからも、そうしてバケーション中に亡くなると思います。退屈が私を死なせてしまうでしょう。愛は永遠です。

さらに、介護施設勤務の観客から、『男と女』が好きな入居者とのルルーシュ作品を巡る素敵なエピソードが紹介されると、ルルーシュ監督はこう語った。

監督:素敵なメッセージをありがとうございます。この映画は、主として1966年版の『男と女』を既に観た人のために向けて作った作品ですが、実はまだ一度も『男と女』を観たことがない人にもわかるように考えて構成しました。テスト上映を何回か行ったんですが、その際には年老いた人々と同じくらい、若者もこの映画を気にいってくれました。

すなわちこの映画は、観る人の年齢を選ばないのです。もちろん主としてこの映画の観客は、私と同様に白髪になった人たちだとは思います。自分には七人の子どもがいて、子どもたちにもこの映画を見せました。すると、子どもたち全員が、自分たちの父親、すなわち私の作品の中で一番好きなのは、この映画だと言ってくれました。ですから、この映画は若い人たちと同様に、年老いた人々にも属するものだと思います。その方にも、ぜひ観ていただきたいと思います。

また、観客からパリの街の中を車で疾走するシーンに関する質問が寄せられると、

監督:私の映画の最も代表的な二本を、この一本の中にまとめてみました。1966年版の『男と女』と、1976年に製作した『パリ横断』という短編です。
私自身、スピードをこよなく愛しています。スピードが好きだからこそ、50本も映画を撮ることができたような気がします。人生はとても短いので、スピードアップをすれば2倍の人生を生きられると思います。

最後に、ジャン=ルイ・トランティニャンが『男と女 人生最良の日々』の中で口にするセリフをいくつか例に挙げて締めくくった。

監督:80歳以上になり、3回目のハーフタイムを迎えると、何を言っても構わない状態になります。年老いて頭がしっかりしていると、自分の人生をしっかり総括した言葉が出てくるのです。人生の晩年に残す、最後の言葉は非常に重要です。自分が何について語っているか、ようやく理解した上で発言をしているからです。
その言葉に会場から盛大な拍手と喝采が沸き起こった。

映画『男と女 人生最良の日々』は2020年1月、全国ロードショー