『ウルフズ・コール』上映後Q&Aレポート
上映日:2019年6月22日(土)17:45
ゲスト:アントナン・ボードリー(監督)/フランソワ・シヴィル(俳優)
MC:矢田部吉彦
通訳:人見有羽子
6月22日(土)イオンシネマみなとみらいにて『ウルフズ・コール』上映後に、アントナン・ボードリー監督と主演のフランソワ・シヴィルさんによるQ&Aが行われた。
『ウルフズ・コール』は、“黄金の耳”と呼ばれる人並み外れた聴覚を活かし、フランス海軍原子力潜水艦の分析官となった男が主人公。シリアでの潜航任務中、自らの判断ミスから危機を招いてしまい、任務後に危機の原因となった艦艇から放たれる“狼の歌”のようなソナー音の解析に挑む姿を描いたスリラーだ。
これが初の長編監督作品になる監督のアントナン・ボードリーは、アベル・ランザックのペンネームで作家としても活躍する一方、15年間外交官として働いていたという異色の経歴の持ち主。
初監督作品の題材に潜水艦スリラーを選んだ理由について問われると「実は、私自身が偶然、“潜水艦に乗る”という貴重な体験をしたことがきっかけ。あまりにも素晴らしい体験だったので、これは映画にしなければ!と感じました」と明かし、長年「古代(ギリシア)悲劇を現代社会に置き換えることに興味があったので、潜水艦の中でのジレンマは、そのテーマにピッタリだと感じたのも理由の一つ」と説明した。
「潜水艦体験の際に一番衝撃を受けたのは“音”でした。海の音も聴こえれば、サイレンの音も、もちろん機械の音もする。音の世界なんだなと観察していたら、まさに“黄金の耳”を持つ青年に出会ったのです」と、“ソナー”に着目した理由とシャンテレッド役にモデルがいたことを明かした。
一方、本作でオマール・シー、マチュー・カソヴィッツ、レダ・カテブといった個性豊かなベテラン俳優たちと肩を並べたフランソワ・シヴィルさんは、本作出演の経緯について「大物俳優の方々はもちろん監督からのオファーを受けての出演だったのですが、唯一、僕だけがオーデイションで選ばれました(笑)」と茶目っ気たっぷりに明かすと、監督から「彼の演技はピカイチだったよ!」と太鼓判をおされ、「ありがとうございます」とはにかんだ笑顔を見せていた。
さらに「撮影前は尊敬している俳優との共演に恐れも感じていましたが、撮影に入った瞬間、カメラの前では誰もが平等になる。それは潜水艦の中でも全く同じこと。乗り込んだ途端、あらゆるヒエラルキーを越えて、責任をもって任務遂行しなければないのです」と、俳優と乗組員の仕事の共通点についても分析。さらに「オマール・シーはすごく人が良くて、彼が放出するエネルギーにインスパイアされた」「マチュー・カソヴィッツは神経質そうで、そこが動物的でもある」「レダ・カテブはアイデアマンで、いつも良いコメントをしてくれた」と、それぞれの印象を語った。
また「スクリーン越しに潜水艦の世界に没入することができた」という観客からの感想に対して、ボードリー監督は「まさにそれが私の狙いでした。観客にも潜水艦の中に居るような感覚を味わってもらえるよう、リアリティを出すことにすべての神経を集中させました」と話し、フランソワさんも「すべての俳優やスタッフが監督の要求にこたえるため、一丸となって取り組みました。専門用語も多くて演じる上ではかなりハードな体験でしたが、まさに僕らも没入感を味わいながら演じていました」と振り返った。
会場から「おすすめのフランス映画は?」と言う質問が寄せられると、監督は「フランス映画祭で上映される作品です(笑)」と即答したうえで、2018年のカンヌ国際映画祭で上映されて話題を集めたジャン=ベルナール・マルラン監督の「Shéhérazade」を挙げ、フランソワさんは「僕自身はジャック・オーディアール監督の作品が好き」とすすめていた。