『ディリリとパリの時間旅行』上映後Q&Aレポート
上映日:2019年6月22日(土)10:00
ゲスト:ミッシェル・オスロ(監督)
MC:矢田部吉彦
通訳:人見有羽子
6月22日(土)イオンシネマみなとみらいにて『ディリリとパリの時間旅行』上映後に
ミッシェル・オスロ監督が登壇。美しいパリを巡る物語であることから「パリの散歩は気に入っていただけましたか?」と壇上から客席に呼びかけ、大きな拍手とともにQ&Aが開始された。
舞台をベル・エポックのパリにした理由について、オスロ監督は「ベル・エポックは、欧米で女性が長いドレスを身にまとっていた最後の時代にあたります。観客を魅了する作品を作る上で、美しい衣裳が登場するのはとても重要。観客に夢を見せることが出来ますから。サラ・ベルナールがショートパンツを履いていたら、おかしいですよね?」と話し、会場の笑いを誘っていた。
また、オスロ監督は「調べていくうちに、男性至上主義との闘いを象徴する存在として、
ベル・エポックの時代の文明が、格好のテーマであることに気付いた」しかし、これまで多様性をテーマとした作品を手掛けてきた監督にとって“白人しか存在しない”という点だけが難点であると感じ、「当時パリでは、公共の公園に原住民の生活を復元して展示する企画が流行っていた」という事実があることから、本作の主人公のディリリを「ニューカレドニアのカナックからパリにやってきた少女に設定した」と明かした。
さらにオスロ監督は「ディリリがフランス人とニューカレドニア人の混血であるというのも重要な要素。混血児はどちらの国からも排除されがちな存在であることが、キャラクター設定においても生かされている」と語った。
また、監督としては「“フェミニズム”をテーマに描いたというよりも“ヒューマニズム”という表現の方がしっくりくる」といい、劇中にこの時代を象徴する歴史上の人物が多数登場するので、「肖像画や写真をもとにクレヨンで似顔絵を描くのが楽しみだった。画家のロートレックは人間的にも素晴らしく、友情を感じる。とりわけ、ルイーズ・ミッシェル、サラ・ベルナール、マリ・キュリーという3人のスーパーウーマンを、この作品の中で一堂に会させることが出来たことに、我ながら感動を覚えます」と話していた。
そして最後に「ベル・エポックの時代が素晴らしいのは、女性がようやく社会に進出し始めた時代であること。その壁を打ち破った女性たちが一歩を踏み出し、幸いなことに、その壁は閉まることがなく、今でも続いています」とコメントし、Q&Aを締めくくった。
また、オスロ監督自身にとってエポックメイキングともなった『キリクと魔女』の日本語版翻訳をきっかけに、高畑勲監督と親交を温めていたことを明かした。「今日ここに、高畑勲監督がいらっしゃらないことが、とても残念でなりません。高畑監督のことを思いながらこの作品を作った部分もあります。もし、高畑さんがご存命でいらしたら、きっとこの作品も日本語に訳してくださったことでしょう。そういった意味では、本作は、どこか“家なき子”のような、お父さんを亡くしてしまったような感じになってしまいました」と、盟友である高畑勲監督への想いも吐露していた。
『ディリリとパリの時間旅行』は、8/24(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開