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【レポート】6/24イザベル・ユペール「マスターズ・オブ・シネマ」@早稲田大学

6月24日(土)、早稲田大学の早稲田キャンパスで、全学部の学生を対象とする授業「マスターズ・オブ・シネマ」が行われ、イザベル・ユペールさんが講師として登壇した。レクチャー後に帰国するという多忙なスケジュールの中、詰めかけた学生を前に、クロード・シャブロル、マイケル・チミノといった世界的映画監督の貴重なエピソードを交えて、映画界における自らの歩みを振り返った。

大きな拍手に迎えられて壇上に姿を現したユペールさん。簡単なあいさつの後、早稲田大学基幹理工学部・表現工学科の土田環講師の質問に答える形でレクチャーが始まった。

まず初めは、ジョセフ・ロージー監督の『鱒』(82)の話題から。日本で撮影しながらも、国内では劇場未公開、DVDなどのソフトもリリースされていない本作を取り上げることについて、「なかなかスクリーンで見る機会がないので、素晴らしい選択です」と喜び、当時の思い出を振り返った。
「ジョセフ・ロージーと初めて日本に来て、新宿にある小さなバー“ラ・ジュテ”で撮影しました。クリス・マルケルの短編映画でも知られているお店ですが、狭くて急な階段で監督が転びました」。

これまで、100本を越す出演作があるユペールさん。作品を選ぶ基準は、「監督が一番重要。何をするかではなく、誰とやるか」だという。その言葉通り、これまでフランス映画だけでなく、アメリカのマイケル・チミノ、ポーランドのアンジェイ・ワイダ、韓国のホン・サンスなど、様々な国の監督の作品に出演してきた。
「映画に出演することはひとつの旅であり、旅を通じて色々なものを発見します。特に、監督の頭にどんな領土があるのかという発見は楽しいものです。映画に出るという旅と、実際に外国に行く旅で、二重の旅になります。それによってますます経験が幅広くなります。言葉も文化も全く違うものに触れることは意外性があり、世界が広がります」。

そのひとつに、莫大な予算と時間を費やした結果、興行的に失敗し、映画会社ユナイテッド・アーティスツを倒産させたことで有名なマイケル・チミノ監督の『天国の門』(81)がある。
「この作品は長い間、拒絶されて来ましたが、現在は評価されています。ただ、この失敗の後、チミノは映画界から抹殺されました。偉大ですが、呪われた作品。撮影に7カ月を費やした素晴らしい作品です」。

続いて話題は、何度も顔を合わせているフランスのクロード・シャブロルに移る。1930年代に起きた殺人事件を元にした『沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇』(95)で、ユペールさんはサンドリーヌ・ボネール演じる家政婦を殺人に導く女性を演じた。「シャブロルらしい感銘を与える」と振り返ったこの作品について、「撮影前、監督と役について話し合ったのか」と尋ねられると、「偉大な監督と人物について議論することは一切ありません」と回答。シャブロルに限らず、役について監督と話すことはないらしい。

『主婦マリーがしたこと』(88)では、平凡な主婦でありながら、陰で堕胎を行なうなど、状況に応じて様々な一面を見せる主人公を演じている。これに関連した「1つの作品の中で、様々な役割を持つ女性を演じることは難しくないか」という質問には、「状況が全く異なるので、それほど難しくない」と名女優らしい答えが返ってきた。

そして、シャブロルの演出については「完璧と言うほかない」と評価。
「とてもシンプルで、作品に全く無駄がない。無駄な切り返しもなく、顔を長回しで撮りますが、そこからメッセージを読み取るような役割がある。シャブロルの演出は客観的で、深く読み取ることができます」。

一方、シャブロルと同じヌーヴェル・ヴァーグ出身の巨匠ジャン=リュック・ゴダールとも、『勝手に逃げろ/人生』(79)などで顔を合わせている。その印象をシャブロルと比較して語ってくれた。
演出は「2人ともシンプル」だが、編集には個性があり、ゴダールの編集は「特殊なところがあり、アクシデントがあるような形で編集している」。これに対してシャブロルは「それほど時間に手を加えず、そのままの時間の取り方をする」。語り口についてもシャブロルは、「どちらかというと人物がいて、ストーリーがあって…という普通の語り方」だが、ゴダールは「伝統的なストーリーの語り方とは少し違っている」のだという。

「良い監督はストーリーも脚本もしっかりしている。だが、それ以上に人として信頼できなければ、映画は面白くならない」と過去に繰り返しインタビューなどで語って来たユペールさん。この「信頼」とは何かと尋ねられ、次のように語った。
「説明するのは難しいですが、直感とかそういうものかもしれない。偉大な監督は、ひとつの世界観を提案する。強制するのではなく、提案する人です。合理的な説明はできないし、定義することも難しい。説明出来ないからこそ、映画はどんどん新しい形で作られていく。もし、説明ができてしまったら、映画の終わりではないでしょうか」。

また、ユペールさんは女優業以外にも、2003年に『ワンダ』(70)を自ら配給した経験がある。これは、エリア・カザン夫人のバーバラ・ローデンが監督した唯一の長編映画で、日本ではほぼ上映の機会はなかったが、アメリカではDVDが発売され、フランスでは劇場公開して大成功を収めた。製作から30年以上経った2000年にこの映画の存在を知り、気に入って配給権を取得したのだという。
「アメリカ映画には、貧しさや孤独を描いたロードムービーは少ない。この女性の人物像は詩的で、とても弱いところがあるけれど、とても強い抵抗力もある人。映画の中ではあまり見かけないような人物だと思います」。

続いて、学生との質疑応答に。将来、映画関係の仕事を希望しているという学生から寄せられたのは、「映画を作ることは、直接的に世界を変える要素がないと思っています。その場合、映画を作る人間が目指さなければならないことは?」という質問。
これに対しては「映画は世界を変えることができると思います」と断言。さらに「映画は単なるエンターテインメントと思われていますが、考えるテーマを与えてくれます。答えを与えてくれるかどうかはわかりませんが、世界をよりよくする力を持っています」と続けた。

前日、フランス映画祭でユペールさんの主演作『エル ELLE』を見たという女子学生からは、性的な描写やレイプシーンをどう考えるかとの質問が。
「セックスシーンやレイプシーンを拒否することは全くありません。そうでなければ、こういった映画には出演しません」と明言した上で、「このようなシーンは、演じるより、見る方が難しい。演じることはそれほど難しくありません」と補足。続けて、その意義を語った。
「この作品は、性的な暴力がテーマになっています。レイプは犯罪なので、だからこそ罰せられる。その暴力的なシーンがなければ、この映画自体が効果を失ってしまいます」。

また、会場にいた是枝裕和監督からは、母親役を例に「実人生と役の関係をどのように捉えているか」との質問が寄せられた。この件については、「映画の中で母親を演じる時は、たいていは良い母親ではないので、実際の私とはまったく違います。ただし、どんなに良い母親でも、どこか不十分なところがある。だから、あまりよくない母親を演じていても、どこか響き合うところがあると思います」と説明した上で、「実際に母親でなくても、母親を演じることはできる」と結論付けた。

最後は、学生たちに向けた次の言葉で、レクチャーを締めくくった。
「フランス語では『好奇心は非常に醜い欠点だ』とよく言われます。しかし、私の考えは反対です。好奇心こそが大事です。できるだけ多くの映画を見て、大いに好奇心を発揮してください」。

(取材・文:井上健一)

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