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【レビュー】6/25 『Raw(英題)』

ベジタリアンのジュスティーヌは、姉のアレクシアが通う獣医学校へ進学。学生寮への入寮早々、上級生から手荒い歓迎を受け、新入生全員が通過儀礼としてウサギの内臓を食べることを強いられる。だが、これをきっかけにジュスティーヌは、人肉食に目覚めてゆく…。女性監督がカニバリズム(人肉食)を扱い、カンヌを始め世界中の映画祭で失神者続出というセンセーショナルな話題を集めたホラーという触れ込みの本作。確かに凄惨な場面は見られるが、これは単に見世物的な興味だけで語られる映画ではない。

冒頭、どんより曇った空の下、並木道を走ってきた自動車が、木陰から飛び出した人を避けようとして事故を起こす謎めいた場面で幕を開ける。この意味は中盤で明らかになるが、その光景を捉えるカメラの位置が人間の目線よりも低いことが気になった。あたかも、動物が見ているかのような視点だ。

映画にとって重要なファーストシーンに、動物のような視点を持ち込んだのはなぜか。

実は本作には、動物を連想させるモチーフが随所に散りばめられている。そもそも、主人公のジュスティーヌが進学するのが獣医学校。さらに、新入生歓迎パーティーの場面には動物のぬいぐるみを吊るした映像が挿入され、姉のアレクシアはドーベルマン風の犬を飼っている。ベジタリアンだったジュスティーヌが人肉食に目覚めてゆくきっかけも、上級生からウサギの内臓を食べるよう強制されたことである。

また、劇中には「キャリー」(76/2013年にもリメイク)や「ゴッドファーザー」(72)といった名作映画へのオマージュらしき箇所も見られるが、いずれも獣をイメージさせる場面が選ばれている。

つまり本作は、カニバリズムというモチーフを通じて、内に秘められた獣のような野性に目覚めてゆく女性の姿を描いた作品と見ることができる。これまでも、童話『赤ずきん』をベースにした「狼の血族」(84)、「赤ずきん」(11)など、女性の中の野生に焦点を当てた映画は世界中で作られてきた。最近では、狼と暮らす女性を主人公にした「ワイルド わたしの中の獣」(16)という作品もある。本作もそれらの系譜に連なる1本であり、女性の中の野生というのは、ある程度、認知されたものと言っていいだろう。

そのためか、語り口はホラー映画というより、思春期の少女の内面を描いたダークな青春ドラマといった趣き。自然光を生かした撮影の効果もあって、ドキュメンタリーのような雰囲気すら漂う。凄惨な場面もないわけではないが、必要以上に過剰な演出はなされていない。

 

そんな物語を引き立てるのは、これがジュリア・デュクルノー監督と3度目のコンビとなるギャランス・マリリエの熱演。大人しい優等生から次第に野性味を増してゆくジュスティーヌの姿は、圧倒的な迫力に満ちている。

女性監督が女性を主人公に女性の中の野性を描いた本作は、まさに2010年代に相応しい1本。近年、日本では恋や人生に積極的な女性たちを“肉食系女子”と呼ぶが、これは単なる流行語ではなく、意外に女性の本質を的確に言い表しているのかもしれない。そして、男である筆者がこの映画を見終わった後、脳裏に思い浮かべたのは次の一言だった。

「女は怖い。」

(取材・文:井上健一)

『Raw(英題)』 Grave

監督:ジュリア・デュクルノー
出演:ギャランス・マリリエ

2016年/フランス、ベルギー/フランス語/98分/DCP/2.35/5.1ch
配給:パルコ

2018年公開予定

©DR

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