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レポート

【レビュー】『たそがれの女心』

2015.6.15

12-MADAME-DE_main流麗なカメラワークで綴られる女性を主人公にしたロマンティックな物語。
マックス・オフュルス作品を一言で表現すると、こうなるだろうか。
『たそがれの女心』(53)は、生涯を通じて20数本の映画を残したオフュルスが遺作『歴史は女で作られる』(56)の前に手掛けた後期の作品である。20世紀初頭のパリ社交界を舞台に、一組の耳飾りに運命を翻弄される女性を描いたメロドラマだ。

オフュルス作品最大の特徴は、何と言っても“流麗なカメラワーク”だろう。本作を例に説明すると、全編の大半を移動撮影による長回しのショットで構成。人物の動きに合わせて縦横無尽にセットの中を動き回るカメラは、ダンス場面では人々の間を巧みにすり抜け、時には建物の1階から2階まで移動。しかも、その動きは流れるようにスムーズで、上品なムードを引き立てる。美しい音楽も手伝い、まさに“流麗”という言葉が相応しい映像は、見る者の心を捉えずにはおかない。

とはいえ、華やかな上流階級の世界を描きながらも、作品には一抹の寂しさや儚さもつきまとう。そこには、オフュルスが歩んだ波乱の生涯が投影されているように思う。1902年、ユダヤ系ドイツ人として生まれたオフュルスは、新聞記者、舞台俳優を経て舞台演出家として活躍。30年に映画監督としてデビューしたものの、ナチスの台頭を嫌って33年にパリに移住する。やがてフランスに帰化するが、40年代は戦火を避けてハリウッドへ。終戦からしばらく経った50年にパリへ戻り、『たそがれの女心』を含む4本の作品を発表した後、57年に54歳で他界した。

12-MADAME-DE_sub110代の多感な時期に第一次世界大戦を経験。演劇や映画で才能を発揮し始めたところで再び戦火に巻き込まれ、祖国を離れて仏、米を転々とする生活は、彼の人生観に多大な影響を与えたに違いない。それゆえか、本作を始め、『輪舞』(50)、『快楽』(52)など、パリ帰還後の作品からは、“幸せは永遠には続かない”という人生に対する諦観とも取れるメッセージが滲み出す。と同時に、それが作品に豊饒な味わいをもたらし、単なるメロドラマとは一線を画している。

主演は、日本でも人気を集めたフランスの大女優ダニエル・ダリュー。1917年生まれの彼女は、98歳にしていまも健在。近年でも『ゼロ時間の謎』(07)などに出演してその存在感を発揮し、2009年にはシネマテーク・フランセーズで大特集が組まれた。本作ではエレガントな大人の表情の中に少女のような純真さを秘めた美しさを堪能できる。共演陣も、夫役のシャルル・ボワイエに加え、『自転車泥棒』(48)などで映画監督として知られるヴィットリオ・デ・シーカが不倫相手を演じる豪華な顔ぶれ。流麗なカメラワークを実現した撮影監督クリスチャン・マトラとは、パリ帰還後の全作品で組んだ名コンビ。ダニエル・ダリューも『歴史は女で作られる』を除く同時期の全作品に出演しており、まさにオフュルスの魅力が詰まった1本と言えるだろう。

(文・井上健一)

『たそがれの女心』作品情報
Madame de…
監督:マックス・オフュルス
出演:ダリエル・ダリュー、シャルル・ボワイエ、ヴィットリオ・デ・シーカ
1953年/フランス/95分/DCP/スタンダード/モノクロ
※デジタルリマスター上映
提供:アンスティチュ・フランセ パリ本部

© 1953 Gaumont (France) / Rizzoli Films (Italie)


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