レポート

【レポート】6/29『チャップリンからの贈りもの』

2015.07.09

AMG_2936main6月29日(月)、フランス映画祭2015の最終プログラムとして『チャップリンからの贈りもの』(14)が有楽町朝日ホールで上映された。上映後のQ&Aにはグザヴィエ・ボーヴォワ監督が登壇。挨拶と共に日本の印象を「特に注目したのは、(日本人が)自分以外の人をリスペクトする態度。大都会なのに、車も静かで物音があまりしない。とても静かで落ち着いた街だと驚いた」と話した。途中、監督からのサプライズに観客も歓喜するなど、クロージングを飾るにふさわしい華やかなトークショーとなった。

AMG_2910S本作は、1978年に実際に起きたチャップリン遺体誘拐事件を映画化。遺族の全面協力を得て、実際に住んだ美しい邸宅や墓地をロケ地に、チャップリンの息子や孫娘が当時の家族役などで特別出演した。作品にちりばめられているチャップリン作品へのオマージュは、ラストシーンまでスクリーンを鮮やかに彩る。

司会を務めた東京フィルメックス・プログラミングディレクターの市山尚三さんから、制作を思いついた経緯について質問されると、ボーヴォワ監督は「家で妻と『ライムライト』(52)を見ている時に、この事件を思い出した。インターネットで調べていくうちに、こんな奇妙きてれつな話はあるのだろうか。これが事実ならば、映画にするべきだと思った」と説明した。

AMG_2965Sボーヴォワ監督の大ファンだという観客は、『シェルブールの雨傘』(64)等の数々の音楽を手掛けた巨匠ミシェル・ルグランさんを起用した理由について質問。ボーヴォワ監督は「映画というのは、まるで魂を持った人間のようだと思っている。映画の方から、ルグランさんの音楽を必要としているという魂の呼びかけがあったので、彼にオファーしたところ、幸運にも受けてくれた。彼は83才だが、熱意に富んだ若々しい人だ」と答えた。音楽は、ルグランさんのご自宅で3週間の共同生活を送りながら作曲。「ピアノの隣に編集機を持込み、直接話し合いを重ねて2人で積みあげながら作っていった。彼のとても熱心な姿を思い出して、私は今でも涙ぐむことがあります」と、ルグランさんへの思いを語った。

AMG_2950S直後、ボーヴォワ監督はいきなり携帯電話を取りだし「彼に電話してみようかな。番号を知っている人は少ないから、結構出る確率は高いんだ」と、ルグランさんに生電話。「ウィ」とご本人が出ると、まさかのサプライズに観客からは大歓声と拍手が巻き起こり、会場のボルテージは一気に最高潮へ達した。「今、日本の観客と一緒にいるんだ」とボーヴォワ監督が話すと、電話越しに観客の歓声と拍手を聞いたルグランさんも「日本の皆さんに乾杯!」と明るい声で応じ、日本のファンを大いに喜ばせた。

AMG_2945S本作は、7月18日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほかで、全国順次ロードショー予定。チャップリンが映画『ライムライト』(52)のために書いた主題曲の旋律をモチーフに展開する挿入曲は、作品全体をきらめくような音楽で彩る。美しい音楽と映像、そしてユーモア溢れる温かな人間愛をもう一度劇場で味わってほしい。

(取材・文:小嶋彩葉、撮影:白畑留美)

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【レポート】6/29『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』

2015.06.30

AMG_2779Sフランス映画祭最終日の6月29日(月)、有楽町朝日ホールにて『セバスチャン・サルガド / 地球へのラブレター』(14)が上映され、平日の日中にも関わらず多くの観客が会場を埋めた。本作は、ブラジル出身の世界的な報道写真家であり、環境活動家としても知られるセバスチャン・サルガドの軌跡を名匠ヴィム・ヴェンダース監督がセバスチャンの長男であるジュリアーノ・リベイロ・サルガド監督と共に解き明かした感動のドキュメント。上映後のQ&Aには、ジュリアーノ監督が登壇し、本作誕生の裏話を語った。

IMG_0598Sまず、東京フィルメックス・プログラミングディレクターの市山尚三さんから紹介を受けたジュリアーノ監督は「セバスチャンが持っている楽観性とバランスのとれた世界、希望の持てる世界をみなさんに感じてもらい、分かち合えたなら嬉しいです」と挨拶した。

実は本作を撮影する前は、多くの父子が経験するように、決して親子の関係性が良好だとは言えず、父・セバスチャンについての映画を撮ることは考えられなかったとジュリアーノ監督。しかし、セバスチャンの取材旅行に同行したことをきっかけに様々な人と出会い、良い影響を受ける中で父子の関係も徐々に変化していったという。そして「40年間、世界を特別な視点で見てきた証人である父の世界を描こう」と思い至り、2011年よりヴェンダース監督と共に本格的な制作を始めた。

AMG_2818S父親の仕事をする様子を見てどう感じたか、という客席からの質問には「取材旅行中ではなく、ヴェンダース監督のアイディアと編集により私は父を見出すことになった」と回答。写真とセバスチャンの語りによって、40年間の変容を描くことはジュリアーノ監督の中で固まっていたそうだが、そこにヴェンダース監督の素晴らしいアイディアが化学反応をもたらした。「彼はセバスチャンをスタジオに座らせ、周りを黒い幕で囲んで孤立させ、何も見えない、何も聞こえない状態にした。目の前にマジックミラーを置き、裏にはカメラをセット。マジックミラーに映し出される写真を2枚、3枚と見ているうちに、セバスチャンはどんな人に出会い、どんな状況で撮った写真か自然と語りだしたんだ。」

AMG_2750Sその後、ヴェンダース監督が編集した映像を見て、初めて他人の目を通して父が語る姿を見たジュリアーノ監督は、セバスチャンがどのように苦しみ、精神的に成長していったのか理解できたという。そこからギクシャクしていた父子の関係は完全に変わり「友人」になることができた、と振り返った。

AMG_2713S最後に、ジュリアーノ監督から「何かをやろうと思っても、自分はどうせ何も役に立たないのではないか、と思うかもしれない。今、世界はネガティブなニュースで溢れているが、その中でもセバスチャンのように私達1人1人が少しでも行動を起こすことで、必ずポジティブな状況を作り出すことができると信じています」と、観客へメッセージが送られると、会場からは大きな拍手が沸いた。

IMG_0562S「神の眼」を持つと称されるセバスチャン・サルガドの写真は、私達が未だ知らない現実の世界へと誘う。本年度アカデミー賞最優秀長編ドキュメンタリー映画賞にもノミネートされた本作は、8月1日(土)から、Bunkamuraル・シネマ他にて全国ロードショー予定だ。

(取材・文:小嶋彩葉、撮影:白畑留美)

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【レポート】6/28『ティンブクトゥ』(仮題)

2015.06.30

AMG_2416S6月28日(日)、有楽町朝日ホールで『ティンブクトゥ(仮題)』が上映された。今年、フランスで最も権威ある映画賞・セザール賞で7部門を受賞し、アメリカのアカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた話題作である。上映後にはアブデラマン・シサコ監督がトークショーに登壇。アフリカのマリ共和国を舞台に、武装した過激派集団に占拠された街に暮らす人々の姿を描いたドラマに、客席から数々の質問が寄せられた。

AMG_2481_1S拍手に迎えられて姿を現したシサコ監督は、「この映画をご覧いただいたことにお礼申し上げます」との言葉に続けて、映画の背景を説明してくれた。

2012年、アフリカにあるマリ共和国の北部を武装したイスラム過激派が占拠。1年続いたその状況の中で、一組のカップルが死ぬまで石を投げつけられる“石打ちの刑”に遭う事件が発生する。これを新聞報道で知り、大変なショックを受けたという。この事件をヒントに製作されたのが本作。シサコ監督は「野蛮な行為や暴力に反対するための映画です」と明言した。

さらに、AMG_2399S「もうひとつこの映画で見せたかったことは、イスラム教は決して暴力的な宗教ではありません。ただ暴力を使う人がいるということです。そもそも宗教というのは、暴力ではなく、愛であり、受け入れる事、そして許すということです」と続けた。

アフリカの砂漠地帯を舞台にした本作には多数の人物が登場し、その立ち振る舞いは非常にリアル。シサコ監督は出演者について「プロの俳優と映画に出演したことのない人が混じっています」と前置きして、その内訳を説明。主人公を演じたのは音楽家でその妻役は歌手、過激派のリーダーはフランスで活躍するアルジェリア出身の俳優など、芸術分野で活躍する人たちがいる一方で、撮影を手伝ってくれた人や監督の友人も出演するなど、国籍も職業も異なる多彩なキャストによって成立していることを明かした。

AMG_2378Sさらに話題は、登場人物の描写にも及んだ。劇中では、住民はもとより過激派のメンバーも暴力的な一面だけではなく、日常描写を交えて1人の人間として描かれている。「暴力を見世物のように描きたくなかった」と語るシサコ監督は、続けて「重要なのは、野蛮な行為や暴力は人間が行なうことであり、だからこそ恐ろしいのだということです。人間にこのような能力があることを示したかったのです」と力説。

AMG_2433S一方、住民たちの描写については、マリ北部占拠中に執筆した脚本を元に、解放後に現地取材した人々の話を取り入れる形でまとめられた。「そこで会った人たちは、平和的な抵抗を行なっていました」“平和的な抵抗”とは、サッカーや歌が禁じられた状況の中、ボールなしでサッカーをする少年たちや、歌を歌った罪で“鞭打ちの刑”を受けている最中に歌い続けた女性を指し、その様子は劇中でも描かれている。
「特に、女性たちが勇気を持って行っているということを示したかったのです」。

AMG_2381S「トークショーは得意ではありません」と言いながらも、映画の解釈や宗教を巡る質問に対して、ひとつひとつ丁寧に答えてくれたシサコ監督。その姿からは、作品に込めた強い想いが伝わってきた。

『ティンブクトゥ(仮題)』は2015年冬ユーロスペースほかにて公開予定。去り際に「みなさんが、この映画を発見してくれることを願っています」と語った監督の想いを、1人でも多くの人が劇場で受け止めてくれることを願ってやまない。

(取材・文:井上健一、撮影:白畑留美)

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【レポート】6/28『ヴィオレット』(原題)

2015.06.29

mainAMG_2220フランス映画祭3日目の6月28日(日)、有楽町朝日ホールにて『ヴィオレット』(原題)が上映された。本作は、1940年代から60年代にかけてのフランス文学界を背景に、実在の女性作家ヴィオレット・ルデュックの半生をきめ細やかに描いた作品。上映後には、『セラフィーヌの庭』(’08)でセザール賞最優秀作品賞に輝いた名匠マルタン・プロヴォ監督と、主演女優であり今年の映画祭の団長を務めるエマニュエル・ドゥヴォスさんが登壇し、熱気に包まれた会場から大きな拍手で迎えられた。

AMG_2233Sさっそく、東京フィルメックス・プログラミング・ディレクターの市山尚三さんが、フランス文学界におけるヴィオレット・ルデュックの位置づけと制作経緯について訊ねた。プロヴォ監督がそれまで作品を読んだことのなかったヴィオレット・ルデュックを意識したのは、『セラフィーヌの庭』を撮り終えた頃、女流画家セラフィーヌについて書かれたヴィオレットの文章を出版社の編集者に紹介されたことがきっかけとなったそうだ。その文章に感銘を受けて本作の制作を思い立ったという。フランス文学界におけるヴィオレット・ルデュックの存在は、60年代には比較的知られていたものの、その後、ほとんどの作品が書店に並ぶことのない忘れ去られた作家になってしまったとか。幸いにも、本作がきっかけでフランスでは再び注目を浴びるようになり、日本でも彼女の作品が書店に並ぶことを期待しているそうだ。

AMG_2189S監督がシナリオを書く前からキャスティングを決めていたというヴィオレット役のドゥヴォスさんもまた、この作品に出演するまではヴィオレット・ルデュックについて全く知らなかったそうだ。監督のオファーを女優として嬉しく思ったそうで、撮影にあたり監督から「顔を醜くしてもいいか」と訊かれると、「こういう役は女優にとって素晴らしいプレゼント」と応えたというドゥヴォスさん。

AMG_2230S続いて会場からの質問に移った。本作ではヴィオレットの家庭事情に比重が置かれているが、その点について質問が寄せられた。監督は、「父親にも母親にも存在を認めてもらえなかったという家族との葛藤は、ヴィオレットが生涯かかえた葛藤だった。(ヴィオレットの才能を見出した)ボーヴォワールは、ヴィオレットにとって父親代わりだったのではないだろうか」と説明。一方、ドゥヴォスさんは母親役のカトリーヌ・イジェルさんとの共演を「強烈な体験」と振り返り、母親と激しく言い争う場面では力をもらえたと明かしてくれた。また、「文学であれ何であれ、芸術を通じて自分が抱える苦悩を克服することほど美しいものはない」と続け、「ヴィオレット・ルデュックは文学界のゴッホだ」と感じたそうだ。「ぜひヴィオレットの作品を読んでみてください」と観客にアピールする一幕も。

IMG_0410S次にプロヴォ監督作品に特徴的な自然描写について話が及んだ。監督によると、セラフィーヌはシンプルに自然との関わりを持って生きた人物で、ヴィオレットもまた、自然との関係がシンプルで強力だったことがその文章からうかがえるとか。監督自身もセラフィーヌやヴィオレットのように自然の中で日々生活しているそうで、そうした生活環境がおのずから作品に現れているのではないかと分析した。

AMG_2266WSさらに、長回しのカットが多くて撮影の苦労はなかったかという質問にドゥヴォスさんは、「偉大な監督との仕事でそうしたことは問題になりません。長回しというのは役者にとって心地よいもの。そのシーンに完全に没入でき、細切れにされることなく勢いを以て演じることができます」と応じ、大女優らしい一面をのぞかせてくれた。

AMG_2245S本作を掘り下げようとするといつまでも話は尽きない様子だったが、時間切れとなりトークが終了。本作は、12月19日より岩波ホールほか順次全国公開が予定されている。ぜひ劇場で、ヴィオレット・ルデュックの小説に触れてみてはいかがだろうか。

(取材・文:海野由子、撮影:白畑留美)

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【レポート】6/28『アクトレス〜女たちの舞台〜』

2015.06.29

AMG_1878S「フランス映画祭2015」開催3日目の 6月28日(日)、有楽町朝日ホールで『アクトレス ~女たちの舞台~』(原題:シルス・マリア)が上映され、上映終了後にオリヴィエ・アサイヤス監督が登壇してトークショーが行われた。観客から大きな拍手で迎えられたアサイヤス監督は、「日本の方々には私の作品を愛していただき、友人もたくさんいる。日本で新作が公開されるときはできるだけ来ようと努力してきました。今回もこうして呼んでいただけて嬉しい」と挨拶。会場からの質問に、丁寧に答えてくれた。

AMG_1930S1970~80年代に活動したテロリストを描いた『カルロス』(10)や、1968年の五月革命後の世代を描いた青春映画『5月の後』(12・日本未公開、第25回東京国際映画祭で上映)など、近年のアサイヤス監督作品はバラエティに富む。まず、司会を務める東京国際映画祭プログラミング・ディレクター矢田部吉彦さんが、今回新たに女性性について切り込んだ『アクトレス ~女たちの舞台~』(原題:シルス・マリア)を製作した理由について尋ねた。

AMG_1916S「長い間、ジュリエット・ビノシュとは一緒に何かしたいという話をしていました。ある日彼女から、『私たち2人の関係を反映するような映画を作ってはどうか』と電話があったのです。考えてみると、私のフィルモグラフィーには、“ジュリエット・ビノシュ主演映画”が欠けていると感じました」と、企画の始まりを振り返ったアサイヤス監督。「彼女とは昔からの知り合いで、共通点も多くあります。まさにそこに映画の材料があるのではないか。つまり、過ぎていった長い時間がいかに私たちを変えていくのか。そうした時間について語る映画を作ることが出来るのではと思ったのです」

AMG_1953Sただし、テーマや脚本に関する直接的なビノシュの参画は一切なかったという。「脚本執筆中も定期的に会って彼女の声を聞くことが必要でしたが、何をテーマに書いているかはまったく話しませんでした。彼女はどういう映画になるのかということを、脚本が書き上がって初めて知ったのです」

AMG_1968S観客との質疑応答に移ると、本作でアメリカ人として初めてセザール賞(助演女優賞)に輝いたクリステン・スチュワートの起用理由について質問が上がった。『トワイライト』シリーズのヒットによって、アイドル女優的な見られ方をすることが多かったスチュワートだが、アサイヤス監督は、「独特の存在感がある稀有な女優だと思っていた」という。「最初に彼女を見たのはショーン・ペン監督の『イントゥ・ザ・ワイルド』(08)です。5分ほどしか登場しない端役でしたが、映画館を出た後も忘れられない存在感を示していました。カメラ映りが素晴らしく、映像の中の彼女は、とても強みと深さのある存在に見えました」とその素質を大絶賛。「ヨーロッパのインディペンデント映画に出演するということはクリステンにとって大きなリスク。普段慣れているような製作状況も、報酬も、居心地の良さもまったくない。でも私はその代わりに、これまでの出演作がもたらさなかったものを与えてあげることができると感じていました。つまり、人工的に登場人物を作り出すのではなく、彼女自身を発揮できる空間を与え、彼女の自発的で自然な部分を重視してあげる。そうした演技をすることで、自分自身を発見し、理解することができます。それが今後のキャリアの助けになるのではないかと思いました」

AMG_1891Sビノシュとスチュワートの共演については、「2人の関係はとてもバランスが良く、互いを刺激し合って、よい意味での競争心が働いていた」と証言したアサイヤス監督。しかし、「もし2人の気が合わなかったらこの映画は駄目になる」と、準備段階では大きなリスクを犯している意識があったことも告白した。結果それは杞憂に終わるが、この映画の成功のカギは2人の相性が握っていたと言っても過言ではない。「クリステンにとってジュリエットは、キャリアを通じて自由と精神の独立を保ち続けてきた女優という風に見えていたようで、彼女が歩んできたような道程をたどるにはどうすればよいのか学びたいと思っていたようです。また、ジュリエットの方も、クリステンの中に、自分と同じような映画に対する情熱と、芸術的な要求の高さを見て取っていました。私は彼女たちのそばにいて、2人の関係が進展していくのをドキュメンタリーのように撮影していただけです」と、作品を支えた女優たちのエピソードを語った。

AMG_2041S10月24日(土)から、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマカリテで公開が予定されている『アクトレス ~女たちの舞台~』。女優陣の貢献を絶賛していたアサイヤス監督だが、本作を観れば、男性でありながら、時の流れや成熟に対する女たちの心理を鋭くえぐった監督自身の手腕に最も驚かされることだろう。アルプスの山々を切り取った映像美、優雅なバロック音楽とともに、ぜひもう一度スクリーンで味わってほしい作品だ。

(取材・文:新田理恵、撮影:白畑留美)

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【レポート】6/27『EDEN エデン』

2015.06.28

AMG_1737S有楽町朝日ホールで6月27日(土)、『 EDEN エデン 』が上映され、主演のフェリックス・ド・ジヴリさんと、本作のミア・ハンセン=ラヴ監督の兄であり、共同脚本を務めたスヴェン・ハンセン=ラヴさん が終映後にトークショーを行った。フランスでエレクトロ・ミュージックが急速に広がった1990年代にDJとして歩み始める主人公の栄光と挫折を描く本作には、実際にDJとして活躍したスヴェンさんの経験が色濃く反映されている。そんなスヴェンさんならではの当時の音楽に対する考え方や、映画の持つメッセージ性が伝わるトークが展開された。
23歳の若者らしいラフなスタイルで登壇したフェリックスさんと、落ち着いた物腰のスヴェンさん。司会を務めた飯星景子さんを交え、観客からの質問にテンポよく答えていった。

AMG_1663Sまず、主人公ポールの10年にわたる変遷を演じたことについて、年齢の幅を表現する難しさを問われたフェリックスさん。「モデルのスヴェンさんがそんなに年ではないし、ポールを演じるにあたっても、それほど問題は感じなかった」と振り返り、「ミア(・ハンセン=ラヴ監督)とも、メイクで年をとったように見せることは止めようと決めていました」と明かした。

AMG_1666Sそんなポールという役柄に対して、スヴェンさんには「なぜ自身の人生をモデルにシナリオを書こうと思ったのか?」という質問が飛んだ。すると、まず「この映画は私の人生を語るために作られたものではありません」と誤解を解いたスヴェンさん。「もともとミアが音楽と90年代の若者たちについての映画を撮りたいと考えていて、はじめ私は彼女に当時の思い出やエピソードを語っていただけでした。それから次第に、一緒に脚本を書いていくことになったのです」と説明した。

AMG_1697S妹のミアさんとは、「文学の嗜好が似ている」そうで、映画の終盤に登場するアメリカンの詩人ロバート・クリ-リーによる詩についても、スヴェンさんがミアさんに影響を及ぼした。「ミアとこの詩人のことを話したことがあって、それをシナリオ執筆中に彼女が思い出しだのだと思います。なぜならあの詩は、映画で扱っているさまざまなテーマに合致していたから。たとえば“過ぎゆく時”というテーマはミアが何度も扱っているもので、“リズム”というのは、音楽はもちろん、変わりゆく人生のリズムという意味でもあります」

AMG_1772Sさらに観客からは、今再び盛り上がりを見せるディスコミュージックとスヴェンさんが活躍した90年代の違いに関する質問が上がった。スヴェンさんは、「当時このようなクラブミュージックを聴いていた若者は非常に少なく、彼らは新しい音楽を発見したと思っていました。今の若者たちは、いろんな種類の音楽を聴いていて、それらのルーツが昔にあることを知っています。でも私たちにとっては、それは非常に新しいものだったのです」と回想。さらに、この映画がフランスの文化を紹介しつつ、アメリカ文化をフランスに啓蒙する役割も果たしていると指摘されると、「フランスとアメリカのつながりによって生まれた音楽であるフレンチタッチを紹介する映画でもあります」と述べた。「フランスには昔から、アメリカ、特にジャズやソウルやブルースといった黒人音楽に対する根強い愛がありました。この映画はそういうフランスの伝統を表しているとも言えるし、2つの伝統の絆がいかに美しいものかということを示している映画でもあると思います」

AMG_1717Sフェリックスさんは俳優以外に、音楽レーベルを持ち、イベントの企画やアパレルのブランドを立ち上げるなど、多彩な才能を持っている。今後のキャリアについて聞かれると、「フランスではすぐ、役者、監督、演出家と枠にはめたがります。きっと税金の関係でその方がいいのかもしれませんが(笑)、私はまだ若いので、いろんなことに挑戦していきたい」と23歳らしい発言が飛び出した。前途洋々で、ある意味「成功者」のフェリックスさんにとって、夢を追いつつ、現実の苦しさと向き合わざるを得なくなる主人公はどのように映ったのだろうか。観客から意見を求められ、「私はこれを成功と失敗の映画だとは考えていません」と答えたフェリックスさん。「人は日々失敗を繰り返しています。自分の行動について、社会が成功だ、失敗だとジャッジしても、大事なのは自分の目的に向かってどこまで突き進んでいけるかということだと思います」と持論を展開した。

AMG_1667S本作への出演を機に、映画の世界ともつながっていきたいというフェリックスさんに対し、「自分がやりたいことは文学」と映画の仕事を続ける気持ちはないというスヴェンさん。そんな2人が貴重なコラボレーションを果たした映画『EDEN エデン』は、今年9月より新宿シネマカリテほか、全国順次公開される予定だ。

(取材・文:新田理恵、撮影:白畑留美)

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【レポート】6/27『彼は秘密の女ともだち』

2015.06.28

AMG_1543S6月27日(土)、有楽町朝日ホールで『彼は秘密の女ともだち』が上映された。日本でも人気の高いフランソワ・オゾン監督の最新作で、生まれたばかりの子どもを残して亡くなった女性の夫と彼女の親友の秘密の交流を描いたドラマである。上映後には主演女優のアナイス・ドゥムースティエさんがトークショーに登壇。意外性ある物語と鮮やかな語り口に魅了された観客からの質問に答えてくれた。

大きな拍手に迎えられて壇上に姿を現したドゥムースティエさんは、今回が初来日。「まるで他の惑星に来たような気がしています」と、ユニークな表現でその歓びを語ってくれた。

AMG_1587S昨年5本の映画に出演するなど、フランスで若手女優として期待を集めるドゥムースティエさん。本作に出演を決めた理由を尋ねられると、1つ目の理由としてフランソワ・オゾン監督の名を挙げた。「フランスでも才能ある監督の1人ですし、そういう監督からオファーを頂けたことは、女優として大きな喜びです」。

AMG_1569S続いて挙げた2つ目の理由は「オリジナリティ溢れるラブストーリーだったこと」。その物語とは、妻を亡くして悲しみに沈む男性ダヴィッドが、赤ちゃんと2人で暮らす中で女装に安らぎを見出し、亡き妻の親友クレールも彼に影響されて変わってゆく、というもの。ドゥムースティエさんが演じたクレールは、主人公であると同時に、ちょっとした表情や視線の変化で観客に物語を伝える役回り。沈黙する場面も多く、演じるのは簡単ではなかったようだ。とはいえ、「人間は、胸に秘めた感情を語らずにいることの方が多いので、クレールが何を考えているのか想像しながら演じることは、女優冥利に尽きました」。満足そうな言葉からは、やりがいのある作品だった様子が窺えた。

AMG_1617Sクレールに変化をもたらす亡き親友の夫ダヴィッドを演じたのは、人気俳優ロマン・デュリス。オーディションではもっと女性的な俳優もいたが、作品の中での効果を考えて、敢えて男っぽさを残した彼が起用された。本人も、女装する役はかねてからの念願だったらしく、カツラを被ったり、高いヒールを履いたりすることを子供のように楽しんでいたという。その姿がドゥムースティエさんの演技を助ける一方で、「普通は女優の方が化粧に時間がかかるのですが、彼は2時間ぐらいかけてメイクしていたので、私の方が待つことになりました」と明かして、会場の笑いを誘った。

AMG_1557S「自分たちにも共通する悩みが、ダヴィッドを通して描かれていたので心に残った」と感想を寄せたゲイの方からの、「実際、身近にダヴィッドのような人がいたら、一緒に過ごすことができますか?」という質問に対しては、「もちろんです」と即答。さらに、「そういうことに対して、私は全く反対するつもりはありません」と言葉を続け、映画の狙いを次のように説明。「こういうテーマだと、悲壮感に溢れたりしがちなんですが、オゾン監督は、軽やかで深刻にならないトーンの映画にしたかったんだと思います。私もそこが気に入りました」。

AMG_1659Sこの他、フランソワ・オゾン監督の舞台裏での姿や、衣装の変化など様々な質問が寄せられ、朗らかに歯切れよく答えてくれたドゥムースティエさん。解釈の分かれるラストシーンについては逆に客席に質問する一幕もあるなど、トークショーは充実した内容となった。

『彼は秘密の女ともだち』は、8月8日(土)よりシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館他、全国順次公開。フランス期待の若手女優が世界的映画監督と組んだユニークな物語を、ぜひスクリーンで堪能して欲しい。

(取材・文:井上健一、撮影:白畑留美)

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【レポート】6/27『ボヴァリー夫人とパン屋』

2015.06.28

AMG_1491Sフランス映画祭2日目の6月27日(土)、有楽町朝日ホールにて『ボヴァリー夫人とパン屋』が上映された。本作は、フランスの文豪ギュスターブ・フローベールの代表作「ボヴァリー夫人」を題材に絵本作家ポージー・シモンズが描いたグラフィックノベルを、アンヌ・フォンテーヌ監督が映画化した話題作。終映後に登壇したフォンテーヌ監督は、まず来日の喜びを語り、「(作品を)気に入っていただけたらいいのですが。気に入っていただけなかったのなら帰ります」と冗談を交えて挨拶し、朝早くから駆け付けた熱心な観客の笑いを誘った。

IMG_0131Sさっそく、司会を務める東京国際映画祭プログラミング・ディレクター矢田部吉彦さんが、主演のファブリス・ルキーニさんなくしては語れない作品だと評すると、長年ファブリスさんと親交のあるフォンテーヌ監督は、ファブリスさんとの出会いについて語ってくれた。監督がファブリスさんと最初に出会ったのは、監督が女優だった頃のこと。『P.R.O.F.S.』(‘85)という映画の撮影現場で共演した折、ファブリスさんから夕食に誘われ、監督はナンパに違いないと思ったそうだが、ナンパどころか、その夕食の席でファブリスさんは小説「ボヴァリー夫人」についてとうとうと語り、完全にボヴァリー夫人の虜だったという。監督は、ファブリスさんが自分の娘にボヴァリー夫人と同じ‘エマ’という名前をつけたほどの傾倒ぶりであることを明かすも、「文学好きの知的なパン屋、という他にはない役を演じられるのはファブリスさん以外に考えられない」とファブリスさんを大絶賛。

AMG_1479Sまた、ボヴァリー夫人を演じたジェマ・アータートンさんのキャスティングについては、彼女に出会ってわずか2秒で決めたとか。「ジェマさんの魅力には、女性も男性も、同性愛者であっても、そして犬さえも抗うことができない」と、監督が惚れ込んだキャスティングだったようだ。

AMG_1493Sコミカルでありながら官能的で、サスペンス色も見られる本作。この作品をジャンルとしてどのようにとらえるべきかという会場からの質問に対して、監督は「辛辣なコメディ」と応じた。さらに、「英国人である絵本作家ポージー・サイモンの持つアングロサクソン的な残酷さ、辛辣さが混じったユーモアが作品全体のトーンに影響している。また、エロティシズムも、例えばパンをこねるシーンに象徴されるように、直接的ではなく間接的に描かれている。主人公のパン屋は妄想によって物事を考え、直接的ではなく何かを介して間接的に物事を考えている」と、冷静な分析を付け加えた。

AMG_1515s続いて、原作であるフローベールの小説「ボヴァリー夫人」を監督自身はどのようにとらえたのかという話に及んだ。17歳の時に初めてこの小説を読んだという監督は、ボヴァリー夫人を「時空を超えた普遍的なヒロイン、モダンで21世紀のどこにでもいるような女性」、そしてあえて定義するなら「リンゴの樹の下に立っていて梨を欲しがるような女性」と表現。小説「ボヴァリー夫人」は、フランスでは学校の課題として読まれる文学的リファレンスとしては有名な図書で、監督は「(著者が)男性でありながら女性心理を細やかに描写する手法が素晴らしいと感じた」という。そして、「ボヴァリー夫人のように誰しも、現実よりも何かもっと強烈で面白いものを期待する気持ちを抱いているもの。誰もがボヴァリー夫人という人物に自己投影できるのではないでしょうか」と独自の解釈を観客に投げかけた。

AMG_1532Sときにユーモアを交えながら理性的な語り口で観客の興味をかきたてたフォンテーヌ監督。最後に観客から大きな拍手が寄せられ、トークが終了。本作は、7月11日よりシネスイッチ銀座ほか全国ロードショーが決定している。ぜひ劇場で現代版ボヴァリー夫人の魅力を堪能していただきたい。

(取材・文:海野由子、撮影:白畑留美)

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【レポート】6/26オープニングセレモニー&『エール!』

2015.06.28

AMG_09706月26日(金)、有楽町朝日ホールでフランス映画祭2015が開幕した。オープニングセレモニーには、団長を務める女優エマニュエル・ドゥヴォスさんをはじめ、フランスを代表する監督・俳優陣ら総勢12名の豪華なゲストが集結。続くオープニング作品『エール!』(14)の上映後には、エリック・ラルティゴ監督と主演女優ルアンヌ・エメラさんによるトークショーが行われた。

AMG_0945オープニングセレモニーでは、主催者であるユニフランス・フィルムズのイザベル・ジョルダーノ代表が「この4日間、独自性あふれるフランス映画の数々を楽しんでください」と挨拶。「フランス映画ファンの皆様にお土産があります」とユニフランス・フィルムズの発注により、フィリップ・ラブロ監督が撮影した、若き日のカトリーヌ・ドヌーヴら4人の新進女優が出演したPR映像(1964年制作)をサプライズ上映し、観客を喜ばせた。続いて、大歓声の中を12名のゲストが登壇。団長のドゥヴォスさんは「こんばんは。東京に来られて嬉しいです。東京を思い切り楽しみたいです」と日本語で挨拶。「フランスの監督・俳優陣が我こそは行きたいと名乗りを上げるのが、この東京の映画祭。私達や皆様にとって良い映画祭になることを願います」と、来日の喜びを語ると会場からは一層大きな拍手が沸いた。

AMG_1007オープニング上映「エール!」は、本国で4週連続No.1に輝き、700万人以上を動員し驚異的大ヒットを記録した作品。フランスの田舎町で農家を営むベリエ家は、高校生の長女ポーラ以外、父も母も弟も聴覚障害者だが、オープンで明るく仲の良い家族。歌手になりたいという夢をもったポーラが、家族との葛藤や絆を確認する中で成長していく感動作だ。上映後のトークショーには、観客の大きな拍手に迎えられてラルティゴ監督とエメラさんが登壇した。

AMG_1026全編にわたって手話を使っての演技が求められる主人公ポーラに抜擢されたエメラさんは、本作で女優デビュー。「フランスのオーディション番組で歌っていた私を見て、監督が声をかけてくれた。手話を覚えるために4か月間のレッスンを受け、簡単ではなかったが苦にはならなかった。手話よりも演技の方が難しかったが、監督に助けられました」と自身の挑戦を振り返った。

AMG_1068ラルティゴ監督はカメラワークについて「手話は、ある意味ダンスの振り付けのようで、視覚的に見ていてとても動きが多い。俳優の手話を見て、観客の聴覚障害者が理解できるように撮影しなければならなかったので、切り替えしで撮ることもできない。手話をしている人がフレームの中に収まるように常に気を付けていました」と本作ならではの工夫についても語った。

AMG_1060続いて、「この会場に聴覚障害の方はいらっしゃいますか」とラルティゴ監督が呼びかけ客席から数名の手が挙がると、エメラさんが「フランスの手話は理解できましたか」と逆質問。男性客が立ち上がり、「全て理解できました。素晴らしい映画で涙が出ました。ブラボーです」と手話で返答すると、エメラさんとラルティゴ監督も手話で応じるなど、手話という共通言語を使った交流に会場は温かい拍手に包まれた。

AMG_1104ラルティゴ監督は「フランスの聴覚障害者コミュニティの皆さんに、本作を日本で上映してもある程度の意味は日本人聴覚障害者も理解できるだろうと言われた。たとえば健常者である私たちが日本語を覚えようとすると15年くらいかかってしまうのに比べ、聴覚障害者は手話という言語があるために、外国へ行ってもすぐにコミュニケーションをとることができる。これは本当に素晴らしいことだと思います」と話した。日本での上映は未定だが、本作は通常バージョン以外に聴覚障害をお持ちの方用バージョンもある、と監督。台詞字幕はもちろん、状況を説明する字幕が色を変えて表示されるという。

エメラさんの生歌を聞きたいと観客同士で話す声もあったようだが、トークショーは時間切れとなりラルティゴ監督の「アリガトウ」の日本語での挨拶で締めくくられた。本作は、2015年10月31日より新宿バルト9他で全国ロードショー予定。ポーラの胸に響く歌声と、ベリエ家の心温まる絆を劇場で見届けて欲しい。

(取材・文:小嶋彩葉、撮影:白畑留美)

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【レビュー】『夜、アルベルティーヌ』

2015.06.15

6-L'ASTLAGALE__main枝葉をかき分け、泥だらけになりながら、夜の闇の中を女性がひとり這う。やっと道路に頭を出すと、車のヘッドライトの光が汚れた彼女の姿を照らす。主人公の境遇を端的に表したシーンで『夜、アルベルティーヌ』は幕を開ける。

アルベルティーヌ・サラザン。1960年代、フランスの文壇に突如現れた女性だ。エキゾチックで個性的な容貌の下に隠された彼女の素性はかなり特異で、29歳という若さで死去するまでに、売春、窃盗、服役、脱獄を経験する波瀾万丈でハードな人生を送っている。本作は、66年の『ある日アンヌは』に続き、彼女の自伝的小説「アンヌの逃走」を映画化した2本目の作品である。

6-L'ASTLAGALE_sub11957年、強盗の罪で収監されていた刑務所の塀を乗り越えて脱走した19歳のアルベルティーヌは、着地に失敗して足首を骨折してしまう。そこで偶然彼女を救う男、ジュリアン。彼もまた堅気の人間ではない。互いが持つアウトサイダーの空気に惹かれ合ったのか、愛を交わすようになる2人。そんな普通ではない出会いから、その後の約1年間の生活を中心に映画は描いていく。

世界各地の植民地で独立戦争が勃発し、政治的にも不安定だった当時のフランス。警察の目におびえて暮らす主人公たちの周りにも常に不穏な空気が漂うが、そこには同時に、フランス映画好きにはたまらないエスプリも満ちている。当時急激に増えたアフリカ大陸からの移民とおぼしき黒人男性が踊るダンスホール、質素ながら独自のスタイルを持ったアルベルティーヌのファッション、安いワインと紫煙が似合う街角の小さなカフェなど、モノクロで撮られた世界は雰囲気満点。社会の底辺で蠢く人々に焦点を当てながらもどこか瀟洒で、フィリップ・ガレルの元妻で女優でもある監督ブリジット・シィのセンスがうかがえる。アルベルティーヌの“悪友”役を監督の娘エステル・ガレルが好演し、短いながらもインパクトある役柄で息子ルイ・ガレルが登場するのも見所だ。

6-L'ASTLAGALE_sub2孤児院で育ち、養父母の元で愛に飢えた子供時代を送ったというアルベルティーヌ。10代にして刑務所に収監され、28歳で著書が世に出るまで、一生の大半をやくざな道に生きた彼女にとって、彼女を闇から連れ出したジュリアンは唯一本当の愛を育んだ相手だったに違いない。その運命の出会いと2人のはじまりの1年の煌めきを象徴するような海辺のシーンが美しい。実はたまらないキラキラが詰まった作品なのに、モノクロだなんて。その演出がまた心憎い。

(文・新田理恵)

『夜、アルベルティーヌ』作品情報
L’Astragale
監督:ブリジット・シィ
出演:レイラ・ベクティ、レダ・カテブ、エステル・ガレル
2014年/フランス/97分/DCP/スコープ/ドルビー5.1/モノクロ
(c) DR

【レビュー】『たそがれの女心』

2015.06.15

12-MADAME-DE_main流麗なカメラワークで綴られる女性を主人公にしたロマンティックな物語。
マックス・オフュルス作品を一言で表現すると、こうなるだろうか。
『たそがれの女心』(53)は、生涯を通じて20数本の映画を残したオフュルスが遺作『歴史は女で作られる』(56)の前に手掛けた後期の作品である。20世紀初頭のパリ社交界を舞台に、一組の耳飾りに運命を翻弄される女性を描いたメロドラマだ。

オフュルス作品最大の特徴は、何と言っても“流麗なカメラワーク”だろう。本作を例に説明すると、全編の大半を移動撮影による長回しのショットで構成。人物の動きに合わせて縦横無尽にセットの中を動き回るカメラは、ダンス場面では人々の間を巧みにすり抜け、時には建物の1階から2階まで移動。しかも、その動きは流れるようにスムーズで、上品なムードを引き立てる。美しい音楽も手伝い、まさに“流麗”という言葉が相応しい映像は、見る者の心を捉えずにはおかない。

とはいえ、華やかな上流階級の世界を描きながらも、作品には一抹の寂しさや儚さもつきまとう。そこには、オフュルスが歩んだ波乱の生涯が投影されているように思う。1902年、ユダヤ系ドイツ人として生まれたオフュルスは、新聞記者、舞台俳優を経て舞台演出家として活躍。30年に映画監督としてデビューしたものの、ナチスの台頭を嫌って33年にパリに移住する。やがてフランスに帰化するが、40年代は戦火を避けてハリウッドへ。終戦からしばらく経った50年にパリへ戻り、『たそがれの女心』を含む4本の作品を発表した後、57年に54歳で他界した。

12-MADAME-DE_sub110代の多感な時期に第一次世界大戦を経験。演劇や映画で才能を発揮し始めたところで再び戦火に巻き込まれ、祖国を離れて仏、米を転々とする生活は、彼の人生観に多大な影響を与えたに違いない。それゆえか、本作を始め、『輪舞』(50)、『快楽』(52)など、パリ帰還後の作品からは、“幸せは永遠には続かない”という人生に対する諦観とも取れるメッセージが滲み出す。と同時に、それが作品に豊饒な味わいをもたらし、単なるメロドラマとは一線を画している。

主演は、日本でも人気を集めたフランスの大女優ダニエル・ダリュー。1917年生まれの彼女は、98歳にしていまも健在。近年でも『ゼロ時間の謎』(07)などに出演してその存在感を発揮し、2009年にはシネマテーク・フランセーズで大特集が組まれた。本作ではエレガントな大人の表情の中に少女のような純真さを秘めた美しさを堪能できる。共演陣も、夫役のシャルル・ボワイエに加え、『自転車泥棒』(48)などで映画監督として知られるヴィットリオ・デ・シーカが不倫相手を演じる豪華な顔ぶれ。流麗なカメラワークを実現した撮影監督クリスチャン・マトラとは、パリ帰還後の全作品で組んだ名コンビ。ダニエル・ダリューも『歴史は女で作られる』を除く同時期の全作品に出演しており、まさにオフュルスの魅力が詰まった1本と言えるだろう。

(文・井上健一)

『たそがれの女心』作品情報
Madame de…
監督:マックス・オフュルス
出演:ダリエル・ダリュー、シャルル・ボワイエ、ヴィットリオ・デ・シーカ
1953年/フランス/95分/DCP/スタンダード/モノクロ
※デジタルリマスター上映
提供:アンスティチュ・フランセ パリ本部

© 1953 Gaumont (France) / Rizzoli Films (Italie)

【レビュー】『ヴェルヌイユ家の結婚狂騒曲』

2015.06.08

film_02_01_s2014年のフランスの興行成績は、国産映画の相次ぐヒットによって牽引されたと話題になった。その牽引力のひとつがこの『ヴェルヌイユ家の結婚狂騒曲』。社会の多様性に翻弄される家族をコミカルかつシニカルなタッチで描く。

本作の舞台はロワール地方の町シノン。そこに暮らすヴェルヌイユ夫妻には4人の美しい娘がおり、年頃の娘たちは次々と嫁いでいく。娘たちが選んだ相手は、ユダヤ人、アラブ人、中国人…。いずれもヴェルヌイユ夫婦が思い描いていた娘婿とはかけ離れた条件の相手だった。人種も、文化的背景も、宗教も異なる娘婿たちを迎えるヴェルヌイユ夫妻の戸惑いは大きく、娘婿同士の些細な対抗意識もエスカレートしていく。

film_02_02ヴェルヌイユ夫妻を演じるのは、コメディ映画の常連、クリスチャン・クラヴィエとシャンタル・ロビー。娘婿たちに対する不満を言いたい放題の夫クロード、半ば諦めた様子で夫を諌める妻マリー、この夫妻の愛すべき絶妙なケミストリーは見逃せない。そして4人娘とその伴侶たちの個性豊かなキャラクターにも注目してほしい。

film_02_03本作では、人種、宗教、異文化を扱った数々のジョークが飛び出す。思わず笑ってしまうのだが、笑った後に、「笑えないジョークだったのかもしれない」と小さな後ろめたさを感じたり、「いや、ジョークなのだから笑い飛ばしていいのだ」と自分に言い聞かせてみたり。もちろん受け止め方や反応はさまざまだろうが、まだ記憶に新しいシャルリー・エブド襲撃事件の衝撃が頭の中をよぎってしまう。こうしたパンチの効いたジョークやテンポの良い軽妙な会話のやり取りを通じて、互いに心を通わせ一つの大きな家族となっていく過程が、本作の見どころである。数々の作品の脚本を手がけてきた監督のフィリップ・ドゥ・ショーヴロンは本作でも脚本に参加し、2015年リュミエール賞で脚本賞を受賞、その確かな実力を発揮している。

本作のヴェルヌイユ家の騒動は、まさしくフランス社会がいま抱えている葛藤を映し出しているように見える。その一方で、多様であるがゆえの苦悩を新たな喜びに変えていく家族の底力も同時に見せてくれる。シノンの町に注がれる柔らかい陽光に包まれながら、ヴェルヌイユ家の一員になったつもりで、ぜひ一家の行く末を見届けていただきたい。

(文・海野由子)

『ヴェルヌイユ家の結婚狂騒曲』作品情報
Qu’est-ce qu’on a fait au bon Dieu ?
監督:フィリップ・ドゥ・ショーヴロン
出演:クリスチャン・クラヴィエ、シャンタル・ロビー
2013年/フランス/97分/DCP/ビスタ/ドルビーSR
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